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【213】 キツネノヘダマ

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(写真はハラタケ目ハラタケ科ノウタケ属セイヨウオニフスベ)

キツネダマ、妙な名である。またテンダマという。これは一つの菌類であって、しかも屁のような悪臭は全然なく、それのみならずそれが食用になるとは聞き捨てならぬキノコ(木の子)、いやジノコ(地の子)であって、常にこつぜんとして地面の上に白く丸く出現する怪物である。

五、六月のこう、竹藪、樹林下あるいは芝地のようなところに生えて吾人に見参し、形まるくあるいは多少平円でその大きなものはえんとして人の頭ほどになる。初めは小さいが次第にふくらんできて意外に大きくなる。

最初は色が白く肉質で中がじつしており、もろくて豆腐を切るようだが、後ちにはぜんに色が変わりついに褐色に移り行ってけいきょとなり、中から煙が吹き出て気中に散漫するようになるが、この煙はすなわちその胞子であるから、今これを胞子煙と名づけてもまんざらではあるまい。

今から一〇九〇年も前に出来たふかえのすけひとの『ほんぞうみょう』に「和名、」すなわちオニフスベと出ているが、しかもその書にはなにもその意味は書いてない。しかしこれは誰にでも鬼をふすべる意味だと取れるであろうことは、もっとものように感ぜられるが、ただし私の考えではこのフスベはいぼすなわちこぶのことであろうと思う。

みなもとのしたごうの『倭名わみょう類聚るいじゅしょうそうるい中の贅を布須倍(フスベ)としてある。そこでオニフスベは鬼のこぶの意であると推考せられ得る。こぶこぶしくずっしりと太った体の鬼のことだから、すばらしく大きな瘤がれ出てもよいのだ。そして鬼を燻べるということだと解する人があったら、その人の考えは浅薄な想像の説であるように私には感ぜられる。

このオニフスベはわかいとき食用になる。今から二八二年前の正徳五年(1715)に発行の『倭漢わかん三才さんさい図会ずえ』に「薄皮アリテ灰白色肉白クスコブショウニ似タリ煮テ食ウニ味たんかんナリ」と書かれて、この時代既にこんな菌を食することを知っていたのは面白い事実である。

この異菌の食われることは西洋での姉妹種 Lasiosphaera Fenzlii Keichardt と同様である。それが無論無毒であって食ってもいっこうにつかえないことが先年理学士石川光春君の試食によって証明せられ、同君は当時これをバターでいためて賞味したことを親しく私に話された。

『植物一日一題 キツネノヘダマ』
(牧野富太郎)

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