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【215】 キツネノタイマツ

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(写真はキジカクシ目ヒガンバナ科ヒガンバナ属ヒガンバナ
別名:曼珠沙華マンジュシャゲ

万葉人の歌、それは『万葉集』巻十一に出ている歌に「みちのべの いちしのはなの いちじろく ひとみなしりぬ あがこひづまは」(路辺 壱師花灼然 人皆知 我恋孋)というのがある。そしてこの歌の中に詠みこまれている壱師ノ花とあるイチシとは一体全体どんな植物なのか。

古来誰もその真物を言い当てたとの証拠もなく、いたづらにあれやこれやと想像するばかりである。なぜなれば、現代では最早そのイチシの名がすたたれてくにこの世から消えっているから、今その実物がつかめないのである。ゆえにいろいろの学者が単に想像をたくましくして暗中模索をやっているにすぎない。

甲の人はそれはシであるギシギシ(羊蹄)だといっている。乙の人はそれはメハジキのヤクモソウ(ジュウすなわち益母草)だといっている。丙の人はそれはイチゴの類だといっている。 丁の人はクサイチゴだといっている。戌の人はそれはエゴノキだといっている。そして一向にしゅこうすべきその結論に到着していない。

そこで私もこの植物について一考してみた。初めもしやそれは諸方に多いケシ科のタケニグサすなわちチャンパギク(博落廻)ではないだろうかと想像してみた。この草はたけ高く大形で、夏に草原、山原、路傍、圃地のいんまわり、山路の左右などに多く生えて茂り、その茎の梢に高くぬきんでている大形の花穂そのものは密に白色の細花をつづって立っており、その姿は遠目にさえもいちじるしく見えるものである。

だが私はそれよりも、もっともっとよいものを見つけて、ハッ! これだなと手を打った。すなわちそれはマンジュシャゲ(曼珠沙華の意)、一名ヒガンバナ(彼岸花の意)で、学名を Lycoris radiata Herb. と呼び、漢名をセキサンといい、ヒガンバナ科(マンジュシャゲ科)に属するいわゆる球根植物でしゅうじゅうりんけい(Tunicated Bulb)を地中深く有するものである。

さてこのヒガンバナが花咲く深秋の季節に、野辺、山辺、路の辺、河のほとりの土堤、山畑の縁などを見渡すと、いたるところに群集し、高く茎を立て並びアノかくしゃくたる真紅の花を咲かせて、そこかしこを装飾している光景は、誰の眼にも気がつかぬはずがない。そしてその群をなして咲きほこっているところ、まるで火事でも起こったようだ。

だからこの草にはキツネノタイマツ、火焔カエンソウ、野ダイマツなどの名がある。すなわちこの草の花ならその歌中にある「いちじろく」の語もよくくのである。また「人皆知りぬ」も適切な言葉であると受け取れる。ゆえに私は、この万葉歌の壱師すなわちイチシは多分うたがいもなくこのヒガンバナすなわちマンジュシャゲの古名であったろうときめている。が、ただし現在何十もあるヒガンバナの諸国方言中にイチシにほう彿ふつたる名が見つからぬのが残念である。

どこからか出て来い、イチシの方言!

『植物一日一題 万葉歌のイチシ』
(牧野富太郎)

キノコのスッポンタケにもキツネを冠したものが三種ある。和名はゆらぎがあるので、参考程度で。スッポンタケの英名は Stinkhorn:臭いつの。和名はスッポンの首から来ているようだ。

スッポンタケ科
キツネノタイマツ(狐松明)
スッポンタケ科
キツネノロウソク(狐蝋燭)
スッポンタケ科
キツネノエフデ(狐絵筆)
スッポン

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