【222】 狐変女形値播磨安高語
(写真は食肉目イヌ科キツネ属コサックギツネ)
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今昔、播磨安高と云ふ近衛舎人有けり。右近の将監貞正が子也。
法建院の御随身にてなむ有けるが、未だ若かりける時、殿は内裏に御ましける間だに、安高が家は西の京に有ければ、安高、内に候けるが、従者の見えざりければ、西の京の家へ行くとて、只独り内通りに行けるに、九月の中の十日許の程なれば、月極く明きに、夜打深更て、宴の松原の程に、濃き打たる袙に、紫菀色の綾に袙重ねて着たる女の童の、前に行く様体頭つき、云はむ方無く月影に□て微妙し。
安高は、長き沓を履てこそめき行くに、歩び並て見れば、絵書たる扇を指隠して、顔を吉くも見せず。額頬などに、髪捻懸たる、云はむ方無く厳気也。
安高、近く寄て触這に、薫の香極く聞ゆ。
此く夜深更たるに、何れの御方の人の何こへ御するぞと、安高云へば、女、西の京に人の呼べば行く也と答ふ。安高、人の許へ御せむよりは、安高がり去来給へと云へば、女、咲たる音にて、誰と知てかはと答ふる、極く愛敬付たり。
此く互に語ひ行く程に、近衛の御門の内に歩び入ぬ。安高が思ふ様、豊楽院の内には、人謀る狐有と聞くぞ。
若し此れは、然にもや有らむ。此奴、恐して試む。顔をつぶと見せぬが怪きにと思て、安高、女の袖を引へて、此に暫し居給へれ。聞ゆべき事有りと云へば、女、扇を以て顔に指隠してかがやくを、安高、実には、我れは引剥ぞ。
しや衣剥てむと云ふままに、紐を解て、引褊ぎて、八寸許の刀の凍の様なるを抜きて、女に指宛て、しや吭掻切てむと、其の衣奉れと云て、髪を取て、柱に押付て、刀を頸に指宛つる時に、女、艶ず臭尿を、前に散と馳懸く。
其の時に、安高、驚て免す際に、女、忽に狐に成て、門より走り出て、こうこうと鳴て、大宮登に逃て去ぬ。安高、此れを見て、若し人にや有らむと思てこそ、殺さざりつれ。此く知りたらましかば、必ず殺てましと、妬く悔しく思えけれども、甲斐無くて止にけり。
其の後、安高、夜中暁と云はず、内通りに行けれども、狐懲にけるにや、更に値はざりけり。狐、微妙き女と変じて、安高を□さむと為る程に、希有の死を為ずしてなむ有ける。
然れば、人遠からむ野なむどにて、独りの間に、吉き女などの見えむをば、広量して触這ふまじき事也。此れも、安高が心ばへの有て、女に強に耽らずして、□られぬ也となむ語り伝へたるとや。
『今昔物語集 巻廿七 狐変女形値播磨安高語 第卅八』
*□は闕字。
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『今昔物語集 巻廿七』には、五つの化け狐の逸話があるが、白狐、黒狐ではない。
狐変大椙木被射殺語 第卅七
狐変人妻形来家語 第卅九
狐託人被取玉乞返報恩語 第四十
高陽川狐変女乗馬尻語 第四十一
稲荷狐はいつから白くなったのか?
