【068】 アカハラ
(*写真はスズメ目ツグミ科ツグミ属アカハラ)
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「こなひだあの集會堂の裏のところで、小鳥の巣を見つけたんだけれどね。花のさいた野茨の茂みの中で、もう五六羽雛に孵つてゐたんだがね、――あんなところに巣をこしらへるのは何かしら?――」
「どんな鳥でしたな?」
靴屋は何を言ふかといつた顏をして、眼鏡ごしにぢろりと彼の方を見た。
「胸にちよつと赤みのあるね、羽はさあ? ……」
彼はすこし上づつたやうに彼女の方へふりかへつた。
「おい、ありあ鳶色だつたかなあ?」
彼女も説明に困つて、ただ氣まり惡さうに首をかしげてゐるきりだつた。
「アカハラかなんかでせう」
靴屋はあんまり興味もなささうに答へた。
「アカハラなら僕も知つてゐるけれど、どうもアカハラぢやなかつたなあ」
「そんなところに巣をつくるのはアカハラ位なものですよ」
と靴屋は彼を輕く一蹴した。自分の小鳥の觀察の仕方の出たらめだつたのに、われながら呆れ返つてゐた矢先だつたので、それに文句の言ひやうもなかつた。彼はもう靴屋の説に抗はないことにした。
『巣立ち』(堀辰雄)
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「アカハラ」をネット検索すると、「アカデミックハラスメント」ばかり出てくるが、昔は日本固有種のイモリとツグミの仲間を指した。
有尾目イモリ科イモリ属アカハライモリ(通称アカハラ)と、スズメ目ツグミ科ツグミ属アカハラは同じ名前を共有している。鳥類と植物の同名は結構あるが、両棲類は珍しい。
和名・チャイナ名・英名を並べると、
赤腹・紅腹蠑螈・Japanese fire-bellied newt
赤腹・赤胸鶫・Brown-headed thrush
Bellied:下腹の
Headed:頭部の
色も部位も微妙に違うのが興味深い。
では前章の続き。両棲類をざっくり分けると、
無尾目:カエル
有尾目:カエル以外
有尾目はざっくり以下に分類される。
オオサンショウウオ科
サンショウウオ科
イモリ科
サイレン科
サイレン科は日本人に馴染みがない。中北米のみに棲息する後ろ足二本がない、前足二本だけの細長い不思議な生物。
両棲類の中で、体内受精をするのは原則としてイモリだけ。サンショウウオは魚類と同じ、体外受精なのだ。だから「いを」なのかも知れない。
チャイナではどんな字が用いられているか。
オオサンショウウオ:大鯢
サンショウウオ:小鯢
イモリ:蝾螈
サイレン:鰻螈
鯢は山椒魚の意、魚篇だ。蝾、螈はいずれもイモリの意で虫扱いである。サイレンは、鰻+螈で、なかなかナイスなネーミングだ。ユーラシアにはいない生物なので、最近できた当て字であろう。
鯨鯢の鰓に掻く
この読み方と意味は分かるだろうか?
