「憧れてまうやろぉー!」←瀬尾まいこさんの『あと少し、もう少し』を読んだ感想
憧れてまうやろぉー!
あ、あ、
憧れてまうやろぉーー!
あ、すみません。つい私の中のWエンジン・チャンカワイさんが出てきてしまいました(←爆笑レッドカーペットで流行った「惚れてまうやろー!」というネタなのですが、令和でもまだ伝わりますよね?)
どうして私が吠えているかというと、
瀬尾まいこさんの小説『あと少し、もう少し』を読んで、そこに出てくる”ジロー”という中学生に憧れてしまったからなんです! めっちゃええ子やでジローくん。
さて今回は、読書感想文です。
みなさまは「うおー、この人、憧れちゃうなあ」という人がいらっしゃいますか? 身近な人でも、フィクションの登場人物でもかまいません。たぶん、何人か思い浮かびますよね。
私の場合は、まわりの空気を良くしてくれる、ムードメーカーみたいな人に憧れちゃいます。
自然と気配りをして、損な役回りを買ってくれるような人。しびれますね~。そういう人が、実は陰で悩んでいたりすると、
「おいっ!私の胸を貸すから!私の前では泣いてええんやで!」と近寄りたくなっちゃいますよね。
『あと少し、もう少し』に登場するジローくんは、まさにそういう男の子なのですよ。中学3年生なんですけど、いやもう、爪の垢を飲ませていただきたいくらい出来た子で。
ぜひともジローくんの推し語りをしたいのですが……、そのためにまず、この本のあらすじを紹介させてください!
あらすじ
瀬尾まいこさんの『あと少し、もう少し』は、2012年に新潮社から発売された小説で、中学生駅伝をテーマにした青春友情ものです。
瀬尾さんと言えば、本屋大賞を受賞した『そして、バトンは渡された』が有名ですが、この受賞作が「子育てのバトン」という比喩的なバトンリレーを扱っているのに対し、本作はガチ陸上のタスキリレーです。
ちょっと脱線しますが、私は瀬尾さんの小説が大好きで、図書館に行っては片っ端から借りて読んでいます。伊坂幸太郎さん、村上春樹さんと並ぶくらい心酔している作家さんです。
瀬尾さんの小説は「家族のきずな」がテーマにされることが多く、ユーモアを交えながら、心あたたまる読後感が得られるのが特徴です。
気の利いたセリフ回しは伊坂幸太郎さんっぽく、家族人情は重松清さんぽいと個人的には思っております。
特に瀬尾さんは「一風変わった家族構成」をモチーフにしがちで、父親がたくさんいたり、母子家庭だったり、複雑な家族をポンと設定します。そこから、少年少女の人格がどう形成されていくかを描いていく感じです。
そして瀬尾さんは15年間、中学校で国語の先生をされていたそうです。なので、思春期の子どもたちの目線を描くのが本当にお上手なんです! 本の中でリアルな中高生が、複雑な家庭から影響を受けて葛藤いく。それが読み応え抜群なんですよね。
そういった瀬尾さんらしさが本作にも満載だったので、事前知識としてお伝えさせていただきました。
脱線おわり。あらすじに戻ります。
本作『あと少し、もう少し』は、陸上部の中学生が、県大会への出場を目指して、仲間を集めながら駅伝チームを作っていくお話です。
その陸上部には元々厳しい顧問(満田先生)がいたんですけど、異動になってしまって、新しく陸上素人の若い女性の先生がやってきます(上原先生)。
先生は頼りにならない。それに加えて、駅伝には6人必要ですが、まともなメンバーがまだ3人しかいない。そこで、生徒たちは、いろんな部活から足の速そうな人をスカウトしてきます。
で、6人そろえて本番にのぞむというわけです。こういうスカウト系の流れは、私の世代だと漫画『アイシールド21』を思い出します。ワクワクが約束された展開です。実際、めちゃくちゃおもしろかった。
さらに、この作品のいいところであり、大きな特徴は、小説自体が1個のタスキリレーになっている、ということでした。
どういうことかと言うと、1章、2章の代わりに、1区、2区という章割りになっていて、全部で6区あるそれぞれの章が、別々のランナーが語り手となって、リレーの形で語られていくのです。
1区は、いじめられっこ体質の設楽くん。アイシールド21で言えば、小早川セナみたいなタイプです。自己評価は低いんですけど、追い詰められるとたしかな走力を発揮します。
そんな「いじめられたくないが原動力」の設楽くんの目線で、チームに人が集まっていく流れや、本番当日の1区の走りが描かれていくのが「1区」パート。
ああ、なるほど、こういう物語なのね。
と、1区でいったん全貌を把握したところで、2区に移ります。そしたら、また最初から物語が巻き戻されて再生されるんです。ただし、今度は2区走者のヤンキー大田くん目線です。
こういう感じで、タスキリレーしながら小説が進んでいき、トータルで6回、同じ話を読みました。
けれど毎回視点がちがうので、おもしろい。「ああ、あのすれ違いは、こういう理由だったの!」と謎が解けていく快感がありました。これはタスキリレーを利用した粋な設定ですわ。
ここで、ザっと残りの走者を紹介しておくと、、、
2区は、「だりぃ~」とヤンチャポーズ決めてるけど、実は自分に自信がないだけの、かまってちゃんヤンキーの大田くん。←素直になれよ
3区は、頼まれたら断れないムードメーカーだけど、実は母親からの呪縛を受けていて、自分はこれでいいのか悩んでいるジローくん。←可愛い
4区は、クールで冷たいことを平気で口にしちゃうけど、実はおばあちゃんっ子であることをバレたくないだけの、仮面かぶっちゃう系男子・渡部くん。←中学生だな~
5区は、唯一の2年生で、部長の桝井に憧れていると思っていたら、実は憧れじゃなくてボーイズラブだったことに気付いてしまった俊介くん。←可愛い
ラスト6区は、部長の桝井くん。さわやかで何でもそつなくこなすタイプであるけれど、深い人間関係を築くのが苦手で、過去にトラウマがある人。←私っぽい
という構成でした(すみません、読んでいない方にはピンと来づらかったと思います)
この6人(+顧問の上原先生)のお話が、本当のタスキリレーのように次々にバトンタッチしていく流れが見事だったんですけど、とりわけ、そのグラデーションが素晴らしかった。
たとえば1区の設楽くんのパートだったら、次の区の大田くんのエピソードが重要なピースとして埋め込まれているんです。その仕掛けを楽しむうちに、スムーズに2区へと移ります。他の区も同様。
なめらかに走者がつながっていくので、タスキをリレーする必然性が感じられて、ページをどんどんめくりたくなりました。いやあ、瀬尾さん、小説書くのがうま過ぎます。
そして、ラスト・・・。が、どうなるかは、ぜひみなさまの手で確かめてみてください。
あと本作では、瀬尾さんらしく「複雑な家庭環境」が重要な手がかりになっていますので、家庭が各少年たちにどう影響し、だからこの行動や思想を持つにいたったのか!とひも解きながら読むのも楽しいです。
以上が、あらすじでした。
ジローくんのことを語らせてくれっ!
お待たせしました! というか私が待ちました! ここからはジローくんの素晴らしさを語らせてください! マジでいい子なんです。
「駅伝の選手が足りない!」となった時、みなさんなら、どんな生徒に声をかけますか? たぶん足が速い子ですよね。バスケ部とか、サッカー部とか、長距離の速そうな部活の子にあたると思います。
でも、断られるケースも多いですよね。じゃあ、どうするか。そうです。そこそこ足が速くて、「こいつはたぶん、断らなさそうだな。簡単に誘えそうだな」というヤツに声をかけるでしょう! それがジローくんなのです。
ジローくんは「頼まれると断らない」キャラです。
そのせいで生徒会の書記をさせられたり、誰もやりたがらない合唱の指揮をやらされそうになったり、他にもいろいろと掛け持ちしていて、とにかくいい奴です。
しかも、です。ジローくんは断らないだけじゃなく、めっちゃ盛り上げてくれるんです。部長の桝井からも全幅の信頼を置かれています。たとえば、このシーン。
'''最後の一人は、決めていた。駅伝練習で空気が重くなるたびに、こんな時にジローがいたらなと何度も思った。
ジローと最初に何かをしたのは修学旅行だ。
(中略)
「レクリエーションタイムのクイズの賞品。じゃーん。なんと飛び出す表彰状」
ジローが嬉しそうに色画用紙を広げると、中からドラえもんのようなアンパンマンのような奇妙なキャラクターが飛び出した。
(中略)
みんながやれやれと笑うのに、「だって、こういうのめっちゃ楽しいじゃん」と、ジローははしゃいでいた。'''(p.242より引用)
空気良くしてくれる人は神! 私はその振る舞いを見て、ジローくんが一気に好きになりました。
しかしジローくんは、あまりにも頼みを断りません。なにか優しい以上に、譲れないこだわりがあるように感じられます。その答えは、母親の呪縛なんです(←ちょっと言葉が強いかもしれません……)
というのも、ジローくんのお母さんは、ジローくんに常々「頼まれたら断るな」と言って育ててきたのです。
でました! 瀬尾さんお得意の、家族関係が人格形成に影響を及ぼすパターン! 分かります、分かります。親に何度も言われたことって、良かれ悪しかれ、変えがたい基本行動パターンになりますよね。
このお母さんの指導のおかげで、ジローくんは超いい奴になったわけですが、本人としては、自分軸がないな~、という不安を抱えていたのでした。それが如実に見えるのが、この独白です。
'''高校に大学にその先の世界。進んで行けばいくほど、俺は俺の力に合った場所におさまっていくだろう。力もないのに機会が与えられるのも、目に見える力以外のものに託してもらえるのも、今だけだ。'''(p.139より引用)
ジローくんは、けっして足が速いわけではありません。チームの中では最弱です。コミュ力が高くて、断らないヤツ。盛り上げてくれるヤツ。そういう「目に見える力以外」を評価されてスカウトされています。
それが通用するのは中学生だけだ。これから先は通用しなくなるんだ。……ジローくんはそんな風に考えているんです。
ジローくん!
言わせてくれ!
社会人を経験した私に、言わせてくれ!
君の自己評価、低すぎるーーーーー!
むしろ、逆だぞーーーーーー!
社会に出て重宝されるのは、頭がいいとか、仕事ができるとか、そういうのより何より、コミュ力だーーーーー!
空気を良くしてくれるヤツが、一番必要なんだーーーー!
たぶんジローくん、めっちゃ出世するぞーーーーー!
そのまま突っ走ってくれーーーー!
ふうっ、ふうっ、ふうっ。
大声を出してしまいました。ジローくんに伝わったかなあ。伝わっているといいなあ。……私はしみじみ思うんです。ジローくんの「ムードメーカー性」って、社会人にとって一番重要なものだって。
私が喉から手が出るほどほしいものを、ジローくん、君はもう持っています。ムードメーカーであること。それを大切にしてください。君の姿勢に、私は憧れちゃっています。大好きです。
私から言いたいことは、それだけです。
あ、ごめんなさい、まだありました。
「頼まれたら断るな」でしたっけ。これは、ほどほどにした方がいいです。自分のキャパを超える仕事を抱えると、心を病みます。自分を大事にすること。これを大学生のうちくらいに覚えることをおすすめします。
世の中には「こいつは断らないから利用しよう」と思う人がいます。作中で言えば、小野田先生です。この人は、善人の皮をかぶっていますが、エグイことをしています。
「駅伝はしません」と断ったジローくんに、「わかった」と言っていったん油断させ、その裏で、小野田先生はジローくんの母親に連絡をして、断らせないための根回しをしました。
これは、私、許せませんでした。
結果オーライですよ? 結果としてジローくんは駅伝から大切なことを学び、素敵な青春を送りました。それはいいんです。でも、一歩間違えたら、つぶれてましたよね?
走るの速くないのに駅伝選手になるのが、どれほどプレッシャーか。これが小説だからいいものを、現実だったら、ジローくんが心を病むエンドも十分にありえました。危険です。
そして、一番許せないのが、
小野田先生! あなた、そんな姑息な手でジローくんを駅伝に引き込んでおきながら、ジローくんが走る3区の応援に行かなかっただろ! 責任もって応援しろよ!
なんですか? 大田を応援しなきゃいけなかった? そりゃそうだけど! 分かるけど! でも、ジローくんが、あまりにも可哀そうだろ!
責任持てよーーーーー!
……すみません、私の可愛いジローくんに卑劣な真似をした小野田先生が許せなくて取り乱してしまいました。みなさまもぜひ、本作を読んで、いかに小野田先生がひどいことをしているか、確認なさってみてください。
おわりに
瀬尾まいこさんの『あと少し、もう少し』の読書感想を書きました。面白かったですね~。瀬尾さんの作品は、はずれがありません。
本作は3部作だそうで、残りの二つをまだ読んだことがないので、また読んでみたいなと思いました。
あとですね、この本を読むきっかけをくださった、レモンいかさんに感謝を申し上げます。おすすめしていただきありがとうございました!
そして宣伝ですが、レモンいかさんと、そのお母さま(maroさん)と、私で、瀬尾まいこさんを語る共同マガジンを作りました(レモンいかさんに作っていただきました。感謝です!)
瀬尾さんファンとつながれてうれしいです。これから時々、瀬尾さんの読書感想文などを書いてマガジンに追加していくつもりです。
以上、瀬尾さんファンのペットボトルロケット団でした。

