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トーストをくわえて走る遅刻しそうなクラディスは②

『JC捜査本部へようこそ。そんじゃー作戦会議でもしよっか』とサクは言った。
サクの部屋にはJCに関するありとあらゆるデータや写真や計算式?が取り揃えられていた。

『き、君は一体、、?』
『まあタカッシーとやってる事は同じだよ。僕の方が少しだけ研究熱心だけど』

サクはベッドに腰かけて膝の上に乗せたノートパソコンをパタパタと操作している。ちらりと覗くとそこには公園の映像が映し出されている。誰かがリアルタイムで撮影している手持ちカメラの映像のように見えた。

他にも誰か仲間がいるって事か?

『そもそもさー。先にお礼を言ってほしいよ』
『お礼?』
『僕はバスに乗ろうとしてたタカッシーを助けてあげたんだよ?』
『へ?どういう事?』

サクは大きくため息をつくと『やっぱりなんにも気付いてなかったかー』と呟き、カチリとパソコンのエンターキーを押した。画面が切り替わり、今朝のバスの画像が現れる。

『あのお姉ちゃんの事が気になって同じバスに乗って追いかけようとした。そうだよね?』
『そ、そうだけど、、、』
『じゃあ聞くけどこのバスは何番?』
『書いてるだろ。13番だよ』
『ん。じゃー13番系統のバスってさー、どこ行きか知ってる?』
『そりゃニャン中行きだよ。俺も学生の頃はこのバスで毎日学校行ってたもん。13番系統はニャン中行きの通学専用バス』
『だ~か~ら~。よく考えてみなよ。その中学って廃校になってるよね。なのになんで13番が走ってんのさ。あとミナミ中をニャン中っていわないで。おじさんのそういうの、なんか気持ち悪いから』
『なっ!なんだとう!ニャン中はニャン中だろ!俺らの頃はみんなそう呼んでたぞ!それに年は関係ないだろ!大体君は、、』
と返しつつ、そこで止まってしまった。

確かにそうだ。なにかおかしい、、。

サクはじっと僕をみつめたまま手元の画面のバスの画像を拡大して見せた。運転席だ。
無人の。
無人?

『明らかにおかしいよね。このバス、無人の自動運転で走ってる。日本じゃまだこんなものを走らせていい法律は、無い。下手にこんなバスに乗ったらどっか得体の知れない所に連れてかれて命が無くなるかもよ?』
『マジか、、。このバス、他に乗客は?』
サクは首を降った。
『少なくとも僕がこのお姉ちゃんの事を調べ始めた2ヶ月前から誰一人として他に乗客はいないね』
『にっ、2ヶ月?今日で5日目だろ?』
『タカッシーてさー1ヶ月前から公園でぶらぶらしてるよね。何がすごいって、あのお姉ちゃんの事にようやく気付いて不審に思ったのがここ数日ってどんだけ回りが見えてないのさ?タカッシーがあのベンチに座ってた1ヶ月間ずっとあのお姉ちゃん毎朝同じ事してたんだよ?』
『か、考え事してたからさ、、』
『鈍感すぎでしょ。なんかこの1ヶ月ずっとベンチに座ってブツブツ言ってたし、リストラの絶望からようやく落ち着いて、やっと周囲が見えてきたって感じ?』
『失敬だな君は!僕は休職してるだけだ!』
『社会の荒波に呑まれちゃったわけだ』
『呑まれ「かけ」だから!まだ呑まれてない!』
『いい大人が毎日公園のベンチに座ってるだけって、、』
『は?公園だけじゃないし!図書館とかイオンのフードコートにも行ってますけど!』
『なにそれ。意味同じでしょ』
『ていうか座ってるだけじゃないから。英気を養ってるんだよ、あれは。』
『ふーん、ま、なんでもいいけど。ただ仕事はした方がいいと思うよ?』
『うるさい!うるさいうるさいうるさい!』
『うわぁ、うるさい一本で押し切った、、だめな大人だな、、、』
『だいたい君だって学校行ってないじゃないか!さては君、引きこもり児童だろ』
『通ってるよ?毎日リモートで大学の講義受けてるけど』
『だっ、大学?』
『アメリカの大学に飛び級してるんだよ』
『ワケわからん!超天才少年ですってか!じゃあなんでランドセル背負ってんだよ!』
『昼間っから小学生がランドセル背負わずに歩いてたらタカッシーみたいなメンドクサイ大人に『学校はどうした?』とか言われていちいちメンドクサイからだよ。ランドセル背負ってたら早退して帰るところだとか何とでも言えるでしょ』
『ぐぅ、、そっか、、、』

改めて室内を見渡してみた。無数の座標軸や数式。そしてノートパソコンをタイピングするスピード。確かにこのガキは、なんか天才ぽい、、、。

『まあ麦茶でも飲んで落ち着きなよ』
『あぁ、、、』
僕はすすめられるままに麦茶を飲んだ。
なんだか色々と混乱してきた、、。

ふとサクのノートパソコンに目をやると画面は先程の手持ちカメラ?の映像に切り替わっている。映っているのはどうやらこの家の外観のようだ。と、カメラはジャンプして2階の窓を外から映した。ちょうど今僕たちがいるこの部屋の窓だ。

と同時に。
『ナ~』という猫の鳴き声がした。

窓から入ってきた白黒の猫にサクは
『お帰り~』と声をかけた。

『モ、モノクロじゃないか、、、』
『なんかそう名付けてたよね。勝手に。白黒だからモノクロってセンスゼロだよね』

と言いつつサクはモノクロの頭をなで、首輪を外した。首輪から細いケーブル端子を引っ張り出しノートパソコンにそれを繋ぐとすぐに画面が立ち上がりデータを吸い上げ始めた。

『こいつもお前の仲間だったのか、、』
『そだよ。ずーっとタカッシーの事もチェックさせてたよ。ここ1ヶ月ずーっと公園でぶつぶつ言ってたからさ、なんか変なおっさんのモブキャラが現れたなーと思って』
『誰がモブキャラだよ』
『でも急にあのお姉ちゃんの事を追いかけ始めたからさ、これはこっちの仲間に引き入れるのもアリかもしれないなーと思い始めて、、』
と言いつつサクは猫の尻尾を引いてそれをそのままコンセントに差し込んだ。モノクロは丸くなってその場にパタリと横倒しになり、瞳が赤と青に交互に点滅し始めた。

『なにい!うそ?この猫、ロボットなの?』
『古っ、。ロボットって、、。そこまで精度良くないから普通気付くと思うんだけど。こいつ瞳孔開きっぱなしだし同じ動きしかしないしアクション一定だし』

だめだますます混乱してきた。
『なんかもうすごいな、、、』

『とりあえずさー、なんで僕がタカッシーを仲間に引き入れようと思ったかっていうとさ、小学生の子供一人だと捜査する時に車運転したり身分証が必要な場所に入ったり夜中に行動したりとかが難しいじゃん?身動きが取りづらいっていうか行動範囲が限られてくるっていうか、、。だから大人がひとり仲間にいると便利かもなって思って』
『なんだかなぁ、、』
『まあタカッシーもどうせヒマでしょ?それにあのお姉ちゃんを追いかけてたって事はやっぱり色々気になるんだよね?なら一緒に捜査しようよ。それにね、、』
『何?』
『タカッシーが考えるよりずっとずっと、ずーっと、深いよ、この謎は』
『?』

翌日、僕はサクと公園で待ち合わせた。
この2ヶ月間、サクがJCを捜査して発見した色々な事を教えてくれるのだという。
『まずは情報を共有しておかないとね』
とサクは言った。

『JCのお姉ちゃんは毎朝精確に8時4分49秒に公園前の自宅から出てきて8時4分53秒に「遅刻しちゃう~」と叫ぶ。発声時間は1秒74。それから8時5分02秒に右のスニーカーを前方にうっかり飛ばし、片足ケンケンでスニーカーを取りに行く。ここまではいいよね?』
『ああ』

『時刻はただ今8時4分12秒、、。見てて』
サクはそう言うと公園前の歩道に向けていきなりダッシュした。そして毎朝彼女がスニーカーを飛ばしているあたりの地面を指で指し示すとランドセルの中からさっと水筒を出してフタを開け、地面に麦茶をまいた。アスファルトに黒い染みが広がった事を確認すると再びダッシュで公園の柵をくぐり僕の隣まで戻ってきた。息ひとつ切らしてない。さすが小学生だ。

『来たよ』

8時4分49秒。今日もJCが出て来た。
8時4分53秒。「遅刻しちゃう~」
8時5分00秒。JCはサクの作った麦茶の水たまりのちょうど真上まで来た。
8時5分02秒。右のスニーカーを。飛ばした。

いつもと同じ片足ケンケン。
ひとつだけ違うのは、サクがまいた麦茶によってアスファルトに水たまりが出来ている点だ。

したがって夏の朝の舗道には彼女の片足ケンケンの足跡が、、、、付かない、、、。

なぜだ?

今しがた確かに踏んだ水たまりの後が、なぜか地面に付いていない、、。

僕の困惑を見透かしたようにサクは言った。
『ね?謎だよね。水たまりを踏んだのに足跡が付かないなんて【それじゃあまるで宙に浮いているみたいじゃないか】だよね?』
『いやでも、そんな、、、、』
『というかそもそも、いくら急いでたって、あんな分かりやすい水たまり、普通はよけると思わない?おかしいよね?まるで何があってもルートを変えられないみたいだよね』

何があってもルートを変えられない?
本当にそうなんだろうか?
確かめてみる価値はあるか?

僕はサクの目をじっと見て『もしも彼女を呼び止めたらどうなる?』と聞いてみた。
『何度かやってみた。完全無視だね』
『じゃあ、前に立ちふさがってみるとか、』

言いながら僕はもう決心を固めていた。
ベンチから立ち上がる。

いつも通り公園の外周を周り、今ちょうど僕らの目の前を走ってゆくJCに向けて歩き出そうとした。が。

『だめだよ。やめといた方がいい』
そう言ってサクは僕のTシャツの裾を掴んだ。

代わりにサクは地面の石ころを拾うと素早い動作でJCの顔に向かってそれを投げつけた。

『ばっ、お前!何やってんだよ!』

僕がそう叫んだと同時に石つぶては空中で黄色い火花を散らして粉々に砕け散った。

『!!!!』

確かにJCに当たったようにも見えたが、当の本人はなんの反応もないまま目の前をいつも通り走り抜けていった。


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