[映画]『エミリア・ペレス(ジャック・オーディアール監督/2024)』

データ
原題: Emilia Pérez
監督: ジャック・オーディアール (Jacques Audiard)
製作年度: 2024
製作国: フランス=メキシコ=ベルギー=アメリカ合作
アスペクト比: 1:2.35f
上映時間: 2h12
公開日: 2025年03月28日
配給: ギャガ
概略
舞台はメキシコシティ。リタ(ゾーイ・サルダナ)は優秀な弁護士であるにも関わらず黒人であること、女性であることで弁護事務所の裏方でくすぶっている。さらにその事務所は金持ちの弁護をしそれはときには正義に反する結果を生むこともある。その日も妻を殺した男の弁護の原稿を書き、結果、殺された妻は自殺したという筋書きのもと、男を無罪にする。
自己嫌悪に陥っていたリタは突然、誘拐される。そして誘拐された先でリタを出迎えたのはメキシコ最大の麻薬カクテル組織のボス、フアン・デル・モンテ(カルラ・ソフィア・ガスコン)、そして彼の要求は女性になることだった。リタは極秘で性別適合手術に向けの優秀で口の堅い医師を世界中から探し出す。
こうしてフアンはエミリア・ロペスとなる。
一方でリタはフアンの妻ジェシー(セレーナ・ゴメス)と子供達をスイスに移住させ、フアンは自身の死を偽装する。こうしてフアンからリタへの依頼事項は完了する。
4年後、リタは売れっ子の弁護士としてロンドンに滞在している。あるパーティで同郷の女性に話しかけられる。それはかつてのフアン、エミリアだった…。
感想 (※ネタバレあり)
むくつけき男が女性になる…という設定はまっさきにウォルター・ヒルのアクションコメディの『レディ・ガイ/The Assignment (2016)』を思い出しましたが、あちらは怪しげな科学者に無理やり女性にされてしまうという無茶苦茶な話でしたが、こちらはマトモ笑な作品です。
フアンは自身の決断で女性になることにします。幼少期から男という性に違和感を覚え続け、そのことを他人に悟られないように誰よりも無慈悲に振り舞いギャンクのボスに上り詰めましたが、それでもなお自分の本来の姿-女性-になりたいという願望に耐えられず、すべてを捨てる決心をします。
エミリアが再びリタに会いに来たのは再度、リタに仕事を依頼するためでした。それは別れて暮らす妻と子供達と一緒に暮らすこと。リタはフアンの姉という設定で妻と子供たちをスイスから母国に呼び寄せます。父性愛なのか母性愛なのか難しいところですが、夫、父親とは名乗れないまま奇妙な生活を送り始めます。
一方でフアンは行方不明となった息子を探す母親と出逢うことで、自身の過去の贖罪のために行方不明者の家族の支援と遺体探しのためのNGOをリタとともに立ち上げます。
この行動はかなり唐突に感じました。フアン時代の贖罪はわかるのですが、前半に比べるとどこに視点を置いてよいのかわからなくなったというのが正直な感想です。
前半で手術を行うワッサーマン医師(マーク・イヴァニル)が"性別を変えても悪党は悪党のまま"と言って反対しますが、これに対してリタは"身体が変われば社会が変わる、社会が変われば魂が変わる、魂が変われば社会が変わる、そして社会が変わればすべてが変わる"と説得します。なので後半はNGO中心の描写になったのかもしれませんが、そうではなく、アメリアの心理状態を中心に描いてほしかったな…と思いました。もちろん、麻薬カルテルのボスがすべてを捨てて女性として生きる、それだけでは観客は感情移入しづらいゆえの贖罪の描写だったかもしれません。
前述の"麻薬カルテルのボスがすべてを捨てて女性として生きる"が企画のはじまりだったのかもしれません。そこから話を膨らませようとしていろいろと視点が拡散してしまったように感じました。
またジェシーの再婚話についても悩んだあげく祝福するような展開が良かったのかもしれませんが、そうならなかったのは根本にあるマチズモは消し去れなかったから?でもそれに伴うジェシーとの亀裂を事件に仕上げることはなく、自身に向き合い解決していくような展開のほうが良かったのでは?と思いました。
そしてこの作品の特徴が半ミュージカルとなっている点。役者自身に歌わせているので楽曲というよりメロディに乗せて台詞を語っているという感じでしょうか。いわゆるミュージカルとは明らかに異質ですが、面白い試みだと思いました。
『教皇選挙』でも思いましたが、このような映画が今のアメリカのアカデミー賞で13部門(2部門で受賞)にノミネートされるということは驚きとしか思えません。もしエミリア役のガスコンの過去のSNSへのヘイト投稿が無ければ史上初のトランスジェンダーによる受賞が実現したかもしれません。
まとめ
ひっかかるところがいろいろありますが"現在の映画"の力作を観たという印象です。
監督はフランスのベテラン、ジャック・オーディアール。『ゴールデン・リバー/ The Sisters Brothers (2018)』しか観ていないですが、相当に馬力のある監督だな、と思いました。
