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スペイン料理店で肩身の狭い昼下がり グランビア スーク幕張店@海浜幕張

〜昨年のお話〜
海浜幕張で昼どきを迎える。店の数自体は決して少なくない。ただしその多くは、資本の匂いを隠そうともしない店ばかりで、個人店となると急に心許なくなる。駅前のスークに入る「グランビア」は、そうした並びの中にあって、ひときわ落ち着いた顔をしている。スペイン料理の人気店。昼のスープパスタが1,280円と聞けば、こちらの財布事情など眼中にない潔さすら感じるが、空腹という名の背中を押す力は強く、理性はあっさり敗北した。

店に入ると、入口近くのテーブルに案内された。これが誤算の始まりである。客が入るたびにドアが開き、師走の冷気が律儀に店内へ挨拶に来る。暖房は奮闘しているが、多勢に無勢。冷気は容赦なく膝元を撫で、背筋に一抹の緊張感をもたらす。落ち着いて食事を楽しむというより、軽い寒稽古の様相を呈してきた。

気がつけば広い店内は瞬く間に満席。客層は圧倒的に女性が多い。色とりどりのコートと柔らかな声が飛び交う中、場違いなオヤジ三人組が肩を寄せ合っている光景は、どう見ても異物混入である。会話も自然と小声になり、挙動は必要以上に慎重になる。ここで騒げば即刻、社会的信用を失いかねない。そんな無言の圧力がある。

魚介のスープパスタ

やがてスープパスタが運ばれてきた。器は、どう見てもラーメン丼に近い。洒落たスペイン料理と町中華の象徴が、不思議な和解を果たしている。魚介の香りが立ちのぼり、湯気が眼鏡を曇らせた。まずはスプーンとフォークで、できる限り上品に食べ進める。魚介の旨味が幾重にも折り重なったスープは、なるほど評判に違わぬ出来栄えで、一口ごとに納得が積み重なる。

しかし問題は終盤である。残ったスープを、ちまちまとスプーンで掬い続ける行為は、思いのほか忍耐を要する。ここで、ふと脳裏をよぎるのが「レンゲ」の存在である。ラーメン屋であれば、何の躊躇もなく手に取れる、あの実に実用的な道具。しかし此処はスペイン料理店。まさか店員を呼び止めて、「レンゲありますか?」などと聞けるはずもない。想像しただけで、周囲の視線が一斉に集まるに違いない。自意識過剰と笑われようが、中年の羞恥心は案外デリケートなのだ。

無言でスープと対峙し、時間だけが過ぎていく。ここで意地を張るのも大人げない。結局、丼を両手で持ち、直接口をつけて完飲した。体裁より合理性。美意識より実利。中年とはそういう生き物である。

冷気にさらされ、場違いな居心地の悪さを抱えながらも、最後には満足感が勝った。贅沢とは、必ずしも優雅である必要はない。少々の気恥ずかしさと引き換えに得られる充足もまた、人生の味わいである。海浜幕張の昼下がり、スープの余韻とともに、そんな結論だけが静かに残った。

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