サラシナアクター 第二場面 わたし、未だよわよわ
母の見送りのもと、父と共に外に出る
親子で仲睦まじく話している横から「兎良野さんおはようございます。」と淡々とした挨拶
声は隣のドア前から。中学生ほどの少女が掃除用具を持っていた
「おはよう夢優ちゃん。掃除偉いねー」
「ありがとうございます。おにい含めて何年もしていますから」
混乱しながらも年上の威厳を見せようとしたが、声は全然でなかった
「こ、こんちゃぁ……」
「…あ、こんにちはお姉さん」
「わたしは中学生以下のよわよわ人間です」
凪途高校への登校路 満と共に歩いている
なだめる満
「まあまあ。ゆっくり、着実に成長していきましょう。“私のようになるために”」
二人の間にならかが挟まり、それぞれと手を繋いだ
「しかし…貴女の“友だち”は随分と距離が近いですね」
「え、“友達”の距離感これじゃない…!?」
「ウチはええと思うよっ!遠かったら大岡裁きになってまうしな☆」
少しの沈黙。 二人は仰天の声を上げた
昼休み 演劇部室で三人が集まっている
「さて…とよちゃんはさぁ、演劇部(うち)のこと、ちゃんと知ってる?」
「ミスマッチの可能性があると?」
「それ!なんか言いそうな気がすんねんな~。思ってたんと違う!!って」
ショックを受ける
「てなわけでぇ……インターンすんで~~!!」
日曜日 8:25 公園の噴水前で二人合流 体操服のジャージ姿
満は変わらずしゃっきりしているが、歌音はげんなりしきっている
「おはよう!!よく逃げずに参った!!」
ランニングをしながらならか登場。彼女もジャージ姿
「逃げた子には『体験入部いっぱい使って考えて来てな』って言うんやけど、必要ないな!!
…まさか、現役部員が来ないとかあらへんよなぁ?」
腕時計を見ながら訝しむならか。そこに鬼道 彼方が歩いて来る
「っす、おはようございます」
「お、来た来た☆」
(うわぁ…でっかぁ……)と感嘆する。歌音の背では爪先立ちしなければ顔まで見えない
「ん、絶対イチカの方が良かった」
「バイトに逃げたと思うたんか?ギトも対象や」
彼方、ばつが悪そうに頭をかく
「あのわたしは」 「俺の名前は」
自己紹介が被ってしまう
「む…鬼道 彼方。照明だが、今日は教官。ギトって呼んでくれ。」
「か、歌音、です!兎良野、歌音です!!よろ、よろろろ」
「兎良野歌音、“とよ”でいいか?」
食い気味に頷く
「自己紹介えらい!でもまずこれ見てな~~☆」
ならか バックから一枚のプリントを取り出し、見せる
「「…え゛?」」
一年生組、困惑の声を上げた
8:45 前屈運動 男女で別れ、先輩が後輩の背中を押している
「みち、まだいける」
「了解です」
男子側は順調。一方女子側、歌音は全然できていない
「固いなぁ、相当運動してへんな☆」
「は、はいぃ…」
「よーし一旦中断。うちがマッサージしたるわ!」
「…う、南無三」
「えなんですかその準備体操で出るわけないワード」
「ん、ならかセンパイのは…〇ぬ」
マッサージに苦悶の叫びをあげた
9:00 公園内をランニング 歌音が少しへばっている
「こ…これで1周!?」
「む…グラウンド1.7周、慣れないと運動会が地獄。
センパイ、あと何周」
「ん~5周☆」
9:35 芝生上で休憩
歌音以上に満がへとへとどろどろに 水筒の水を飲みながら、彼方の聴取を受けている
(あ、あの日の満くんだ)と少し嬉しくなる
「発声しま――す!!」
9:45 芝生上でそのまま発声練習
「わ、わたし、どうすれば声、出せますか!」
「ん、腹式呼吸」
?を浮かべたままお腹を触る。彼方も首を傾げた
「お腹、というか「横隔膜」ってとこを動かしてすんのが腹式呼吸。
「腹から声出せ」って言葉は聞いたことあるんやないかな。そういわれるんは“息に余裕ができてその分表現ができる”から。
腹式呼吸は大事やで~~!考えてみ?舞台で誰かが演技をしています。演技上手いです。……けど声がすっごい小さいぼさぼさ何か腹立つ!!!って人…正直困らへん?」
「センパイ、それって顔見せのイチ」
「とにかく腹式大事っ!!やからしっかり覚えてな☆」
今度は男女混合ペアで練習
満はしっかりできているが、歌音は上手くいかない
「む、できない?」
「ごめんなさい…よくわからなくってぇ…」
彼方、色々と回答を考えるも納得いく答えを出せず
「センパイ、交代」
「了解!!まずな、全身からグッ―――って持ってくるんや」
「え、グッーーー?」
「で!それを吊りのようにつむじにピー―――ッと引っ張る!!!」
「ピ、ピー?」
「次!ここ大事!!おへそを意識してズズズズズー―――ッと下ろすん
や!!!」
「???」
「ラスト!!横隔ドコォッッッ!!!これ腹式呼吸。感覚覚えてな☆」
全く理解できず。彼方は呆れ顔
「んん、やっぱりイチカでよかった」
10:00 再びランニング
「ま、またですかぁ……?」
「脚本できてない時はこうなんや。体力作りやな」
ここまで飲み物を飲んでおらず、脱水症状が出始めていた
「待った……とよ、飲み物は?」
曖昧に頷く
「うん、センパイ、とよ借りてく」
「…うん、任せた☆」
彼方、歌音に自販機から買ったスポーツドリンクを差しだす
「ん、何をするにも水は必須」
「ありがとうございますぅ……!」
ぐびぐびと飲む、あっという間に空っぽに
「うん…俺は秋から入った。新参者、総文の舞台を知らないザコ」
謎の自分語りに困惑する。彼方は気にせず話を続ける
「そんな俺でも、思ったことがある。
…演劇は“人を理解するスポーツ”。
体の動かし方、魅せ方、声のトーン、イメージ、全部自分(うち)と役(そと)を理解してようやく作れる。
裏方、共演者と共に磨いていく。それが演劇」
首をかしげる。彼方、少し後悔した表情
「む、独り言。覚えなくていい
…やっぱ追加。“スポーツは楽しい”」
10:20 ランニング終わり 一年生組はへとへと
その様子を見て、ならかは真剣な表情を作る
「最後に、伝えないとあかんことがある。…実際はどれくらい活動してんのか
…今日の3倍」
ゾッとする。
「うちら、全国行ったことがあるっていうのは知ってる?総合文化祭ってやつ。今年はエンジョイでもいいかなぁ~って思ってたんやけどね…
やっぱうちら、行きたいんよ。あの輝く舞台に
だからガチでいく。本場直前とかはマジで3倍練習する。
相当つらいと思うで。」
胸に手を当て息を荒くする
「やから…もうちょっと考え直してな」
兎良野家自室 ベットの上で冊子を見ながら物思いに耽る
冊子は凪途高校のクラブ紹介。文化系の部活は10くらいある
(文化系の部活は結構ある…エンジョイ勢だし、大会とかもなさそう。
これらなら、誰もしんどいことはない)
考えがまとまらない。逃げでスマホゲームをしようとしたところで電話が鳴った
ジャージ姿で外に出る。朝とは違う小さい公園で満が待っていた
砂だらけで息切れしきっている
「待ち時間、運動してたの?」
「はい、鍛えたいので
…体は良く動くのです。ただ…スタミナがもたない。
個性だと思い改善を投げていましたが…こんな所で尾を引くなんて」
満を知れたことに嬉しくなる
「では単刀直入に言います。…“演劇しか、ないのですか?”」
固唾を飲む
「貴女の目標は“私のようになる”こと。この実現において「演劇」を知り、基にするのは最適解でしょう。
……ですが、今私たちは筋肉痛と想像できない苦難の日々にしんどさを抱えている。
この目標は“私と関わり知ること”が必須です。でもそれは私が貴女と同じ部活に入れば達成できる…演劇である必要はない」
思っていたことそのままの言葉。辟易とする
(…わたしにとっても、満くんにとってもしんどい選択……“演劇しか、ないのかな?”)
「満くんは…?」
「貴女についていきます」
申し訳ない気持ちが強くなる。体に力が入り、締め付けられているように感じる
苦しい声で先延ばしにしようとする
「もう少し」まで口に出たところで、何かに気付いた
「…!待って今……!!」
深呼吸し、背伸びをする。手を目線の高さに合わせて、それをゆっくりとお腹まで下ろしていく
ならかのアドバイスを反芻しながら、腹式呼吸をしてみせた
「できてた…よね!?」
「うん、できてた」
二人、優しく笑いあう。
「でもですね?それはスタートラインです。苦難の日々は避けられない。」
真顔に無理矢理戻って話を戻す満。
「だね………
でもね、今すっごく!心の底から!!気持ち良かった!!!
できなかったことができるようになる。わからなかったことがちゃんと呑み込める様になって、自分の体はそれができるんだってはっきりとわかる!!
それが、こんなにワクワクするなんて!!!」
自分の気持ちを口にしたところで、彼方の独り言を思い出す。
彼の理論と今の自分の感情が似ていることに気付いた
清々しい顔の歌音。満も清々しい顔で質問を投げた
「…“演劇しか、ないのですか?”」
「うん、“演劇しかないや!!”」
一拍遅れて満のことを考慮していないことに気付いた
「……あ、み、満くんは大丈夫!?」
「裏方に注力すればいいだけの話、適材適所ですよ」
ハッとした顔をする
そこに買い物袋を引っ提げてお隣の少女が通りかかった
「あ、兎良野さんのお姉さん、こんにちは」
挨拶を返そうとするがやはり緊張で声が出ない
「どうしました?もう忘れたので?」
背中を叩かれ背を伸ばす。そのまま腹式呼吸で声を出す
「こ……こ、こんちゃっ!!!」
結局、噛んだ返事。少女は少しポカンとし、やがてクスリと笑い出した
「……こんちゃ。お姉さん」
二人で「こんちゃ」を連呼、色々話して仲良くなっていく
「でもびっくりしました。お姉さん、彼氏さんがいるんですね」
「え゛……か、かかか彼氏!?いや違うよ全然違う!!わたしと満くんはそんな対等じゃないというか、わたしがペットみたいな~っていうか!!」
嬉しそうに話す女子二人
その様子を満は、曖昧な目で見ていた
