サラシナアクター 第三場面 君はもう満潮のなか
朝礼前の時間
歌音、満の二人 職員室から出てくる
入部届を正式に提出できてほっくほくな歌音。満は微笑ましく歌音を見ている
「そ、それじゃ、昼休み4組で」
「せっかくです。今日は場所変えてみませんか?」
昼休み
二人、学校の中庭に弁当箱を持って行く
「ふわあぁ……!!こんな感じなんだ……!!」
「風情ありません?」
歌音、食い気味に肯定 スマホで写真を撮り出す
木の椅子に座り、弁当箱を開ける
満は野菜類が多く全体は少なめ、歌音は惣菜多めで全体的に異次元の多さ
「毎度びっくりしますね。見慣れません」
「そうかなぁ…食べ過ぎ?」
満、軽く首を横に振る
不意に、白夜が中庭で不審な動きをしていることに気付く
二人で近づくと仰天した
「不審者ですか?」
「ぃ、いや…むしろ自然な人のつもりで…バイト…」
二人、首をかしげる
すると、廊下側から黄色い歓声が聞こえて来た
「離れて」
「「え」」
「あーーー!!!あの方は!!!永遠に輝ける美少女!!!私立水鏡月女学校のとびきりの星!!!赤城 環様だあぁ!!!!」
「いやその台詞ってバイトなの!?」
白夜が指さした先、赤城 環が歩いて来る
その姿に男女問わず大量に現れるファンたち、雪崩のような勢い
「離れますよ」
満、急いで弁当箱の蓋を閉め、歌音の弁当箱だけ持ちながら歌音の手を取る
しかし、ファンの勢いに流され、二人はぐれてしまう
歌音が押し出された先は2年生の教室側で、1年生の反対
だが歌音は1年生の棟だと思っている
手元を見ると、満のスマホが落ちていた
(え゛ これって…満くんのスマホ…!?返さないと…
教室で待つのがいいかな。満くんはまず教室に行く気がする)
2年4組教室
覚悟を決め教室に入り、教卓前の席に座る
周りが上級生ばかりであることは気付かない
やがて、成宮 唯華と星崎 佳穂が近付いて来る
困惑しながら話しかけてきた唯華を満だと思ってしまった
「あ、満くん!!これ落とし物だよ!!」
「えと…俺満くんじゃないよ?」
ひたすら土下座
大丈夫だよとなだめる二人 その二人を新歓公演で見ていたことに遅れて気付いた
「あ…演劇部の」
「今気づいたんだ。星崎 佳穂、“かぼたん”だよ」
「成宮 唯華、”イチカ“ってちゃんと覚えてよ?」
再び二人に謝り倒す
「それでさ、とよちゃんはどうしてうちに来たの?」
「えと…満くんと、はぐれちゃって」
事情を知った二年組、話し合い協力することを決める
「じゃあ兎良野さんは食べて待っててね。10分したら」
「ごちそうさまでした!!…い、行きましょう、先輩」
一瞬で大量のお弁当を食べきる歌音、クラスの二年含め普通にドン引きした
中庭に出た三人 机周りに凄い人だかりが出来ている
「中庭にこんな集まるんか…もう野外ライブじゃん」
「押し出されたのも納得だね」
周りを見渡す三人、人だかりから離れてスケッチをとる白夜を見つける
「そこの君!」
唯華が声をかけ、聴取する 事情を知った白夜、顔面蒼白
「あわわごめんなさいごめんなさいごめんなさいボクの仕事が雑だったからどうしようもない無能だったから人の絆を引き裂いてしまったなんてこった戦犯行為だ契約違反だ炎上しか待って」
「はいストップ急いでるから今は情報だけ!」
「ぁ、はいあっち側に押されていました」
指された方向に走っていく二年組
歌音も一拍遅れて続くが、呼び止められる
「あ、待って兎良野さん!!これも!!」
差し出された満の弁当箱を受け取り、改めて走り出す
「ありがとう!やっぱりいい人だね!」
反射的にタメ語を使ったことを後悔する
その様子に、唯華は一つひらめく
「思ったんだけどさ。とよちゃんって満くんのこと好きなん?」
「え゛」
あたふたする。余りにも図星で二年組も困ってしまう
「き、君さ!人と面と向かうの苦手そうやん!
けど今回は“自分から動いてる”。それだけの理由があるんだよ、ね!きっと!!ウン!!」
誤魔化すように話す唯華。その言葉を反芻し、自分の気持ちを言葉にした
「満くんは、わたしに道を見せてくれました。わたしの人生に、光を当ててくれた人、だからかも」
歌音の様子に思い当たることがあった二人、顔を向かい合わせた
「「絶対、見つけないとな(ね)」」
体育館裏
佳穂が満を発見 皆を連れてくる
「満くん!!」
「だからそんなひどいことしてたワケないでしょう?あなたたちと違って」
満は男子四人の不良に囲まれていた
満の飄々とした態度に不良たちは苛ついている
「ならあの白いチビに言ってもいいよな。真っ赤なウソだから」
「いいですよ真っ赤なウソですし。あなたたちでなければ」
いつ手が出てもおかしくない雰囲気 唯華が間に割って入る
「そこの君たち!!何しているんや!!」
「あ~はい風紀ですよ風紀。乱そうとしたクズを指導しようとしてたんです」
「風紀を騙るにしては画が陰湿なんやないか?」
「陰湿なヤツに陰湿にいって何が悪いんですか?真正面から風紀を訴えてもコソコソしたヤツはどうしようもないくせに」
ああ言えばこう言うリーダー格の男子に苦心する唯華
ドキドキしながら見ている女子二人
そこに不良の一人が「こっちに来い!」と歌音を掴みにかかる
瞬間、満が飛び込み、掴もうとした手を叩き落とした
「賢さ足りませんでした?
──悪性(あなたたち)が、彼女に近寄るな」
「わーミチルチャンカッコイー(笑)」
野次馬のように佐倉が乱入。リーダーの肩に平均台のように立って満を煽る
「先輩?今貴方の出番じゃないですよ。悪目立ちもどうか程々に」
「空いてる特等席には座るだろ?だって、お前のインテリぶった姿が良く見える」
満の顔が怒りで引き攣っている
「……“原賀さん”。今日はこれで手打ちにしましょう?
この画を見続けてたら…そこのフクロウモドキから順に血祭りにあげたくなる」
寒気に震える不良たち、リーダーの命令で撤退していく
満に話しかけようとする
が、満は真っ直ぐに歩いていき、佳穂と共に佐倉を蹴り上げた
「「このカス野郎!!!」」
「悪質極まりない野次馬しやがりましたねマジふざけんなです!!」
「火にニトログリセリンぶちこむイカレですか先輩はよくもまあしゃあしゃあと躍り出ましたね〇んでください消火は偉かったです助かりましたですがあなたはもうそのまま〇んでください」
「待った!待ったクソガキども!!一回言い分を聞いてくれ!!
……笑止ッ!!血祭りにあg」
より激しくボコられる佐倉
その様を、残った二人は曖昧な目で見ている
「……よく見ておこうな、佐倉先輩はああいうヤツだ」
放課後
学校近くの高台の公園を満と歌音が訪れている
「高台の公園ってアガりませんか?」
「すっごいアガる!ありがとう満くん!!」
歌音は公園をスマホで撮影
満は木の椅子に座り、テーブルに飴を10数個広げた
「今日のあれこれ、これで補填できたらいいのですが」
食い気味に首を振る
不意に、治安の悪い昼の満を思いかえす。
同時に、何故そんな人がここまでするのかが気になってきた
「……あの、ね。満くんって、なんでわたしにここまでしてくれるの?」
「言いませんでしたっけ。貴女が危なっかしいからって」
「でもここまで色々してくれるのも変……いや嬉しいよありがたいよいつもありがとう一週間しか経ってないけど!!!
………わたしって気にしいだから。だからはっきりしたいの。
満くんって………わたしのこと、好き?」
深刻な顔をする満。落とした飴をティッシュに包みポケットに突っ込んでから、おもむろに立ち上がった
雰囲気が変わったことを感じる。そんな歌音に穏やかな顔を作って近付いていく
「好きですよ」
「“友だち”として」
トイレの外壁まで追い詰め壁ドン
歌音の耳元に淡々と話しかける
「適材適所。人はそれぞれの得意と役目があって、必要な行動をそれぞれに分け合って生きている」
「み、満く……!」
「貴女は未だポンコツだ。できないことは少なくない。でも私だってマクロで見れば同じ、できないことは少なくない。
そしてそれらには互換性があり故に支え合うことを想定された作りであり」
もはや頭が追い付かない。訳が分からず、ただ見つめることしかできない
「では簡潔に。私たちは“友だち”としてお互いを求めている。助け合い、共に進む存在としてお互いを大事に思っている……違います?」
「ど、どう……だろ。
……わからない。わからない、よ……」
ただ震える。
その様子を見て満は「覚えて」と冷淡に語り掛ける
「その痛みは失うことへの恐れ。ともに歩く人、重要に思う人、大切に思う“友だち”の喪失への恐れ。大切な“友だち”を思う何よりの証明」
「“それは決して、恋の痛みではない”」
「そう……なの?」
「ええ、私は知っていますから」
自信ありげに話す満。目をぱちぱちさせる
やがて、何かに気付き顔を赤らめた
「…あれ、わたしたち…“友だち”として……相思相愛!?」
満、手を壁から放し爽やかな笑みを浮かべた
「ふふ、お気付きですか」
猪頭宅 満、自室で月を見上げている
「……君は、恋なんて知るべきじゃない。いつ心を壊すか分からない猛毒なんて、いらない。
…大丈夫、“絶対に幸せにする”。元気一杯に走り出した君を、善い形で導き守るから。
だから気にせず前を見て。
君はもう満潮のなか。楽しくて、苦しい日々が待っている」
兎良野宅のあるマンションの前 夕焼けの中浮ついてふわふわした気分で帰ってきた歌音
階段を上ろうとしたところで、唯華と鉢合わせた
「とよちゃん!?偶然だね!」
「あ、ひゃい成宮、先輩!!」
「イチ…家ここから近いの?」
「は、はい。近いというか…ここぉ…」
「「…え」」
呆気にとられる二人、そこに“お隣の少女”が降りてくる
「おにいおかえり!!って兎良野さんのお姉さんだ。こんちゃ」
「「えええええッッッッ!!!???」」
満、ヘアピンを握り、月に祈る
「──賽は、投げられた」
