専属タレントが "匂わせたい" らしく休日に突然呼び出されました...。
激動のスケジュールを乗り越え、ようやくやってきた貴重な休日。
昼過ぎまでベッドで泥のように眠っていた俺のスマホが、通知音を鳴らした。
画面を見ると、そこには見慣れた、というか毎日見ている名前が表示されていた。
『小林由依』

櫻坂46を卒業後、現在は女優やアーティストとしてマルチに活躍している彼女。
俺はそんな彼女の専属マネージャーを務めている。
仕事柄、休みの日でも明日の確認などの連絡が来ることは珍しくない。
俺は眠い目を擦りながら、仕事モードに切り替えてメッセージを開いた。
由【いまからディズニーシー行こ。】
〇:……は?
思わず素っ頓狂な声が出た。
明日の入り時間の連絡かと思いきや、まさかの夢の国へのお誘い。
いやいや、待ってくれ。今日は俺の貴重な完全オフ日だ。
いくら専属とはいえ、わざわざ休みの日にまでマネージャーとディズニーに行きたいタレントがどこにいるんだ。
〇【お友達と行かれたらどうですか?】
至極真っ当な正論を返信する。
由依さんくらい人気者なら、誘えば一緒に夢の国へ行ってくれる友人などいくらでもいるだろう。
これで諦めてくれるはず。
そう思い、再び布団を被ろうとした瞬間。
ピコンッ。
秒で返信が来た。
由【だめ。おもとだちいない。】
由【〇〇がいいの。】
〇:……っ。
なんだその、ひらがな多めのあざといメッセージは。
『おもとだちいない』って、そんなわけないだろ。
現役時代のメンバーとか、共演者の友達とかいっぱいいるくせに。
それに『〇〇がいいの』というキラーワード。
こんなの、画面越しでも破壊力が凄まじすぎる。
〇:……はぁ。
男として、いや、専属マネージャーとして、担当タレントのこんな可愛いわがままを放っておけるはずがない。
〇【……分かりました。今から準備します。】
由【やった。迎えにきてねー】
画面の向こうでニヤッと笑っている由依さんの顔が容易に想像できる。
こうして俺は、せっかくの休日を秒で返上し、専属タレントの突発的なお出かけに付き合うことになったのだ。
数時間後。
俺たちは夢の国、ディズニーシーの景色の中にいた。
変装用のキャップを被りつつも、由依さんは隠しきれないオーラを放っている。
ちなみに俺の頭には、ちゃっかりお揃いのキャラクターカチューシャが乗せられていた。
全力で拒否したが、有無を言わさず装着された。
由:〇〇!次あっち!あっちで写真撮って!
〇:はいはい。走ると危ないですよ。
パークに到着してからというもの、由依さんは事あるごとに俺にスマホを渡し、専属カメラマンを要求してきた。
最初は普通の記念撮影だったのだが、次第にその要求の方向性がおかしくなっていく。
由:じゃあ、これを食べてる風にするから横から!

由:ちょっと歩くから、後ろからいい感じに撮ってよ

俺のカメラに向けられる由依さんの表情は、テレビや雑誌で見せるようなプロの顔じゃない。
ふにゃっと笑った、完全に気を許している女の子の顔だ。
おまけに俺との身長差のせいで、レンズ越しの由依さんは常に少し上目遣いになる。
それがまた、とてつもなく……あざとくて、可愛い。
一通り写真を撮り終え、海沿いのベンチでチュロスを食べながら休憩している時のこと。
俺は渡されたスマホの画像フォルダを一緒に確認していた。
由:どう? 可愛く撮れてる?
〇:まぁ、被写体がいいんでどれも綺麗に撮れてますけど……
俺はスクロールする手を止め、あるひとつの動画で画面を止めた。
振り返りざまに楽しそうに微笑み、カメラに向かって手を伸ばしている構図。
どこからどう見ても、心を許した相手にしか見せないような甘い表情がそこにあった。
〇:……由依さん。
由:ん?
〇:この写真とか、ファンの方に勘違いされますよ。完全に彼氏が撮ったやつじゃないですか。
マネージャーとして、タレントのSNS管理も重要な仕事だ。
無用な憶測や炎上を避けるためにも、釘を刺しておかなければならない。
そう思って少し真面目なトーンで言った俺に対し。
由:…………。
由依さんは無言のまま、ジリジリと俺に距離を詰めてきた。
そして、被っていたキャップのつばをグッと上げると、至近距離で俺の目を真っ直ぐに見つめてきた。
〇:……由依さん?
由:……ちがう。
〇:え?
由依さんは少しだけ頬を赤く染め、俺の腕をギュッと掴んだ。
由:ファンの人じゃなくて……〇〇が勘違いして!
〇:っ……!?
由:わ、わたしが……ただのマネージャーと、休みの日にわざわざ2人でディズニーなんて。
由:……来るわけないでしょ……バカ。

顔を真っ赤にしてそっぽを向く由依さん。
しかし、俺の腕を掴む小さな手は絶対に離そうとしない。
由:……ほら、早く立って! 次は〇〇とツーショット撮るんだから!
〇:えっ!? ツーショットはさすがにマズいんじゃ……
由:いいの! わたし個人のフォルダに保存するから!
グイッと腕を引かれ、俺は立ち上がらされる。
小林由依の専属マネージャーという職業は、どうやら命がけで心臓を守らなければならない、とてつもなく甘くてブラックな職場だったようです。
