「ママ、おしっこ漏れた」お泊まり保育のあと、ちょっと救われた夜
「ママー!おしっこ漏れたー!」
トイレの床に広がる水たまりと、
さっき履き替えたばかりの
濡れたパンツとズボン。
久しぶりに見る光景だった。
それでも、不思議に思うより先に、
なぜか私は、愛おしいと感じていた。
どうして、こんなに愛おしいんだろう。
「お泊まり保育で、子どもは成長する」
私は元保育士。
そんな姿を見てきた。
そんな声も、たくさん聞いてきた。
実際に娘を迎えに行ったときも、
荷物を全部自分で持って、
満面の笑顔で出てきて、
「がんばったんだな」と感じた。
でも、
私が思っていた“成長”とは、違っていた。
“成長した姿”というより、
少しだけ逆戻りしたような姿だった。
そしてそれは、
娘だけではなかった。
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先日、5歳の娘のお泊まり保育があった。
園のお手伝いは、パパが行き、
私は7歳の息子と、久しぶりにふたりきりの時間を過ごした。
お昼は、息子のリクエストでマックへ。
そのあと娘と夫は幼稚園へ向かい、
私と息子は、ふたりで室内遊具へ。
ほとんど貸切の空間。
トランポリンにボールプール、
息子は夢中に遊び回っていた。
「ママ、これしよう!」
弾む声と、汗ばんだ笑顔。
その日は人が少ないのもあって
私も一緒に跳んだり、投げたり、走ったり。
遊び相手の妹もいない。
「ひとりっ子って、こんな感じなのかな」
そう思いながら、
ふたりで笑い合っていた。
足が重くなっていく私の横で、
まだまだ元気いっぱいの息子。
それでも約束の時間になると、
「帰ろう♪」と。
たくさん遊んで、
心が満たされたのが伝わってきて、
ホッとした。
帰り道、オレンジ色に変わった日差しの中で、
息子がそっと近づいてきた。
体が触れる前に、すっと手を握ってきた。
ぎゅっと握り返すと、
どこか懐かしいぬくもりを感じた。
まだまだ小さな、やわらかい手だった。
妹がいると、あまりつながない手。
でも、その日は違っていた。
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翌日、娘にも同じような姿があった。
パパと3人で、娘を迎えに行った。
娘は大きな荷物を、
ぎゅっと抱えて離さなかった。
少し重たそうなのに、
誰にも渡そうとしなかった。
どうやら、お泊まり保育でもらったものが、
大切だったみたい。
帰りの車の中でも、娘はずっと荷物を膝に乗せたまま。
お泊まり保育中での出来事をぽつりぽつりと話してくれた。
金魚すくいで2匹とれたこと。
家では続いていた鼻血も、その日は出なかったこと。
寝る前に先生が気にかけてくれていたこと。
思い出しながら少しずつ話す言葉の中に、
不安と誇らしさが入り混じっているのが伝わってきた。
そんな中、
家に帰ると、ふと娘がつぶやいた。
「ママのお膝で食べたい」
背中越しに伝わるぬくもり。
ぴったりくっつく小さな体。
顔は見えないのに、
弾む声と食べる勢いで、
うれしさあふれているのがわかった。
安心できる場所を確かめるように、
戻ってきたんだなと思った。
そして、お風呂に入って、
もう寝る直前だった。
「ママー!おしっこ漏れたー!」
トイレの床に広がる水たまりと、
濡れたパンツとズボン。
久しぶりに見るその光景。
以前の私なら、
きっと「面倒だな」と思っていたはずなのに、
今はなんだか懐かしくて、
思わず頬がゆるんだ。
がんばったあとって、
ちょっと力が抜けるよね。
“安心して戻ってきた”
そんな姿に思えた。
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お泊まり保育で、
親と離れることで成長する。
たしかに、それもある。
でも同時に、
安心できる場所に戻ってきたとき、
子どもは少しだけ“戻る”。
決して後退ではなく、
「ここに帰ってきていいんだ」
と確かめる時間なのかもしれない。
しかもそれは、娘だけではなかった。
あの日、息子も
手をつなぐことで同じように戻ってきていた。
離れてみて気づく、
お互いの存在の大きさ。
1日ぶりに会った2人も、
風船でラリーをしながら、しりとりをしていた。
ぽん、ぽん、と風船の音。
久しぶりに響く笑い声。
ちゃんと、ここに戻ってきた。

