見出し画像

ファッション雑誌撮影の通訳現場で

人材派遣業の会社から、ファッション雑誌の撮影にアメリカ人のアドバイザーが参加するので、通訳をしないかという打診がありました。楽しそうな仕事なので、もちろん引き受けました。

ある平日の午前9時にアドバイザーと原宿駅の竹下口で待ち合わせました。待つ間駅前通りを見ていると、丸いメガネをかけて野暮ったいワンピースを着た女性がタクシーに乗るところでした。流行の最前線原宿ではとても目立ちます。

間もなくやってきたアドバイザーが、
「僕はマイク。君が撮影の通訳?」
と話かけてきました。
「ええ、そうです。初めまして」
と自己紹介して、タクシーで10分ほどの撮影現場に到着しました。

そこには竹下通りの雰囲気と全く違う瀟洒な住宅があり、すでに撮影チームと二人のモデルがいました。一人はよく雑誌に登場する人。もう一人はなんと駅前で見たあの野暮ったい服装の女性だったので、私は、この人で撮影するのかと疑いの目を向けてしまいました。

撮影の準備が整ったところで、緑に囲まれた玄関前で10時頃撮影開始。二人のモデルがそれぞれ5着の服を着替えて撮影です。モデルがポーズを取るたびにシャッター音が聞こえます。マイクは、「照明を当てて」とか、「こっちの角度の方がいいよ」などとアドバイスしました。

そのうち野暮ったい女性がギャザーが入った白いふわりとしたドレスで現れ、色々なポーズを取ります。私はそれを見てはっとしました。まるで天女が舞っているかのように美しかったのです。スタッフからもため息が漏れました。

本番で全力投球するからこそ、普段は地味にしたいと思っていたのでしょう。私は人を外見で判断してはいけないと深く反省しました。

ニューヨーク、タイムズスクエア

待ち時間も結構あったので、マイクとこんな話をしました。

「アメリカには痩せて背が高いファッションショー用のモデルだけじゃなくて、広告用モデル、小柄なモデルやLLサイズのモデル、手や足のパーツモデルなど、色々な種類のモデルがいるんだよ。日本には少ないけどね。」
と教えてくれました。

私はすらっとした美女だけがモデルだと思っていたので、LLサイズのモデルやパーツモデルがいると聞き、とても驚きました。アメリカは広大な国なので、それだけ需要も多いのでしょう。

2時間ほどで午前の作業は終わりです。全員で近くのこじんまりとしたレストランに移動し昼食を取った後、少し休憩時間がありました。

マイクが、「アイスクリームを食べよう」と提案してくれました。「でもスタッフから離れた所にしよう。でないとみんなにアイスクリームを買ってこないといけないからね」と訳ありげに言います。

二人でこっそりアイスクリームを食べながら、マイクは、
「アメリカでは、何かを食べる時に分け合わなくてもいいんだよ。学校で子どもはみんなと遊んでいるとき、一人だけでお菓子を食べるよ。でも日本ではみんなで分け合って食べるんだね。もし誰かと分けるとしても、自分が大きい方をもらうことだってあるよ」と言います。

私は小さい頃から、みんなと同じことをしなさい、食べる時はみんなで分けるようにと教えられてきました。もしお菓子を半分に分けて大きさが違ってしまったら、大きいほうを相手にあげるのが当たり前だと思っています。ですから、マイクの言葉は衝撃的でした。

撮影チームは常に一緒に行動し、チームワークを大事にします。一人だけアイスクリームを食べるなんて考えられません。こんな所に個人主義と集団主義の違いが表れているのです。

私たちは間もなく午後の撮影に戻り、楽しい一日を過ごしました。

普段は工場などで通訳をしたり、難しい書類と格闘したり、決して楽しいとは言えませんが、たまにこういう業務もあります。


いいなと思ったら応援しよう!