『鋼の錬金術師』が“特殊な少年漫画”だと気づいた話
久しぶりに『鋼の錬金術師』を読み返して、あることに気がついた。
この作品は、少年漫画の王道の文法から、意図的に外れている。
『鋼の錬金術師』(荒川弘)は、2001年から2010年まで連載された少年漫画である。
連載当時、同時代に人気を博していた作品といえば、『NARUTO』『BLEACH』『ONE PIECE』などが思い浮かぶ。
それらと比較したとき、ハガレンには明確な「特殊性」があると感じた。
それは、次の2点だ。
① 技や強さのインフレーションが存在しない
多くの少年バトル漫画では、
次々と強い敵が現れる
主人公は修行し、新技を覚え、レベルアップする
強さを数値や称号で“可視化”する
という構造が取られている。
たとえば『ONE PIECE』では、懸賞金が分かりやすい指標だ。
ルフィは無名の海賊として物語を始め、強敵を倒すごとに懸賞金が上がっていく。
初めて懸賞金がついたのは、魚人アーロンを倒した後の3000万ベリー。
当時はその金額に、周囲のキャラクターたちが目を見開いて驚いていた。
しかし現在では、億超えの懸賞金は当たり前だ。
3000万ベリーと聞いても、もはや誰も驚かない。
なぜこうなるのか。
それは、一度「強さの指標」を作ってしまうと、それを上げ続けなければ読者の快感(ドーパミン)が維持できないからだ。
私はこれを「強さのインフレーション」と呼びたい。
ところが、ハガレンにはこれがない。
主人公たちの基本的な強さは、最初から最後までほぼ変わらない
新技習得のための修行シーンがない
敵の強さを測る明確な数値指標が存在しない
結果として、「誰がどれくらい強いのか」が曖昧なまま物語が進む。
これは当時の少年漫画としては、かなり異例だったのではないだろうか。
そしてこの選択こそが、ハガレンをミステリー要素重視のバトル漫画として成立させた最大の理由だと思う。
② 技名を叫ばない
もう一つの特殊性が、「技名がない」ことだ。
当時の少年漫画では、
技を使うときに必ず技名を叫ぶのが定番だった。
「ゴムゴムの○○!」
「螺旋丸!」
「卍解!」
これらは作品のアイコンであり、多くの少年少女の心を掴んできた。
しかしハガレンでは、
あれだけ激しいバトルを描いているにもかかわらず、誰も技名を叫ばない。
登場人物たちは、終始黙々と戦っている。
これを見て私は、
「技名を叫ぶ行為って、実はかなり不自然なのでは?」
と思うようになった。
たとえば現実で、サッカーの試合中にシュートを打つとき、
「○○シュート!」と叫ぶ人がいるだろうか。
ボケでやらない限り、まずありえない。
ハガレンを読むまでは、
アニメキャラが技名を叫ぶことに何の違和感も抱いていなかった。
しかし一度この作品を通して見ると、
それが**演出として作られた“お約束”**だったことに気づかされる。
少年漫画の常識を壊した作品
まとめると、『鋼の錬金術師』の特殊性は、
強さのインフレーションを拒否したこと
技名という演出を排したこと
この2点にあると思う。
少年漫画の「気持ちよさ」を支えてきた常識を、
真正面から否定しながらも、
物語として圧倒的な完成度を保ち、最後まで描き切った。
だからこそハガレンは、
今読み返しても色褪せないのではないだろうか。
これはあくまで一読者としての私見だが、
みなさんはどう感じるだろうか。
ぜひ意見を聞いてみたい。
