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『内側の住人ーお前は、もう、喰われているー⑬』

第13章 沈む声、昇る影

 

階段は、永遠に続いているかのようだった。

一段、また一段――
降りるたびに、空気が冷たくなっていく。
やがて、足音すら吸い込まれて消えるようになった。

「誰か、いるのか……?」

声は、返ってこなかった。

 

だが、どこかから“音”だけが聞こえてくる。

それは、誰かのすすり泣き。
どこかで聞いたことがある声だった。

 

「……俺の、声だ」

そう気づいた瞬間、視界が開けた。

広がっていたのは――
水に沈んだ部屋。

 

天井も壁も、水の中だった。
音も光も、すべてが鈍く濁っている。

そして、水の底に、一人の少年がうずくまっていた。

泣いていた。
小さく、苦しそうに。

 

俺はハッと息をのんだ。

「あれは――“昔の俺”だ」

 

小学生の頃。
誰にも相談できなかった、あの日の自分。

笑われたくなくて、強がって、
でも本当は、ただ助けてほしかった。

誰にも気づかれず、
誰にも見つけられず、
水の底で泣いていた、俺の影。

 

「ずっと、ここにいたのか……?」

俺は、迷わず水に飛び込んだ。

冷たい。
苦しい。
でも――近づいていく。

小さな俺は、俺に気づかず、ただ泣き続けていた。

 

そっと、背中に触れた。

その瞬間、少年が振り向いた。
驚いたように、目を見開く。

そして――

 

「……ありがとう」

 

その一言とともに、少年の姿が、光の粒となって昇っていった。

水面が割れ、世界が開ける。

俺は、気づいた。

 

もう、過去に閉じ込められていない。

もう、自分を責めなくていい。

 

深く、静かな呼吸が戻ってきた。

 

次に目を開けたとき、俺は――
白い部屋にいた。

 

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