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『内側の住人ーお前は、もう、喰われているー⑤』

第5章 名前のない少女

 

昼間のはずなのに、空はどんよりと曇っていた。
外を歩いていても、光がまるで届いていないような気がする。
どこか遠くで、小さな子どもの声がした。
それは笑い声にも、泣き声にも聞こえた。

 

会社帰り、ふと横道にそれた。
いつも通らない道、見覚えのない並木道。
吸い寄せられるように歩いていくと、古い公園にたどり着いた。

ブランコが錆びて、ひとりでに揺れていた。
その下に、少女が立っていた。

赤いワンピース。
顔は、やはり影になっていて見えない。

 

「……あなた、名前あるの?」

不意に、少女が問いかけてきた。
その声は、夢の中とまったく同じだった。

 

「あるよ」と、俺は答えた。
「じゃあ、わたしの名前は?」と、少女はまた訊いた。

……答えられなかった。

少女は小さくうなずいた。
それはまるで、「やっぱりね」と言っているようだった。

 

「あなたが忘れたから、わたしは消えたの」
「あなたが、見ないふりをしたから」
「あなたが、わたしを――殺したの」

その言葉に、世界の色がスッと消えていった。

 

気づくと、俺はまた夢の中にいた。
だが今回は、最初から“赤い部屋の中”だった。

壁には子どもの絵。
クレヨンで描かれた、ぐちゃぐちゃの顔。
「たすけて」と、赤い字で書かれた紙が無数に貼りつけられていた。

その中央に、また彼女がいた。
ただ、今度は――微笑んでいた。

そして、小さく呟いた。

 

「もうすぐ、思い出すね」

 

目が覚めたとき、俺の枕元には1枚のクレヨン画が置いてあった。
赤い服の少女と、大きな男の人。
その間には、「おとうさん」と書かれていた。

 

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