『内側の住人ーお前は、もう、喰われているー③』
第3章 冷蔵庫の奥の声
その日、冷蔵庫を開けた瞬間――
「戻れ」と、誰かの声がした。
誰もいないはずの部屋。
耳鳴りかと思ったけど、はっきりとした“声”だった。
低くて冷たい、どこか懐かしい声。
冷蔵庫の中には、牛乳と味噌と、古びた梅干しの瓶。
何も変わった様子はない。
でも、奥の方――白くて冷たい壁の裏側に、誰かが“いる”気がした。
俺は、そっと扉を閉じた。
なぜか、無性に胸がざわついた。
その晩。
風呂から出て、部屋に戻ろうとしたとき、また聞こえた。
「戻れ」
音ではなく、“頭の中”で響くような声。
そして今度は、それに続いて、もうひとつの声が重なった。
「お前は、誰の感情で生きている?」
一瞬、足が止まる。
何かが、冷蔵庫の奥から這い出てきて、俺の背後に立っている気がした。
振り返る勇気は、なかった。
俺は、部屋のドアを閉めて、布団にもぐり込んだ。
汗が止まらない。
でも、寒気がする。
頭の中で、“誰か”が勝手にドアを開けようとしていた。
夢の中で、俺は冷蔵庫の奥にいた。
そこは、まるで病室のような白い空間だった。
奥の奥へ、壁を抜け、さらに奥へ。
その先にあったのは――
俺の“記憶”だった。
誰にも話したことのない、過去の記憶。
誰かが、俺の人生を勝手に開いている。
感情という、内側の冷蔵庫を。
いいなと思ったら応援しよう!
いつも読んでいただき、本当にありがとうございます。皆さまの応援が、静月の物語を生み出す力です。いただいたチップは、すべて次の作品作りに大切に使わせていただきます。
