『終わりの音を聴いた少年⑪』
第11章 無音の中心
校舎の裏手に、使われていない小屋があった。
「ここ……“放送室の旧倉庫”だった場所らしい」
ミユが言った。
「数年前、設備を移してから完全に閉鎖されたって。
でも――記録上は“存在していない”ことになってる」
アキラが、金属製のドアをじっと見ていた。
「……僕、このドアの前に立ったことがある。
でもそのとき、“音が全部消えた”んだ」
「ここが、次の扉だよ」
僕はドアノブに手をかけた。
金属は冷たくない。むしろ、“何も感じない”。
握っても、動かしても、何も音がしなかった。
ドアが、静かに開いた。
中は、真っ白な空間だった。
床も壁も天井も、全部、色がなく、影すらない。
まるで、“何かがこの空間の情報を全て奪い取った”ような無の部屋。
僕たちの足音も、服の擦れる音も、消えていた。
「……声が、出せない」
ミユが口を動かしていたけど、“音”になっていなかった。
言葉も、声も、ここでは存在できない。
「……ここ、完全な“無音域”だ」
僕の頭の中に、カチ、カチという“想像の音”だけが鳴っていた。
“ここで、なにをすればいい?”
そう思った瞬間――
真っ白な部屋の中央に、**一本の“黒い線”**が浮かび上がった。
その線は、まっすぐに空間を裂き、ゆっくりと“人の形”になっていく。
やがてそこに現れたのは――**“ルイの影”**だった。
目の前に立つのは、僕にそっくりな誰か。
でも、表情はなく、ただ無言のままこちらを見ている。
そして、手に――**“白紙の譜面”**を持っていた。
「……お前は……“音になる前の僕”か?」
影は答えない。
でも、その譜面を差し出してきた。
僕が受け取ると、何も書かれていないそれに――
僕自身の**“思考と記憶”が映し出されていった。**
幼いころに飲み込んだ言葉
怒鳴られた声
言えなかった感情
諦めた夢
名前を呼ばれなかった瞬間
すべてが、“音になる前の感情”として浮かび上がってくる。
そしてその譜面が――音を生んだ。
ポロン……
部屋に、一音だけが響いた。
その一音を皮切りに、空間全体が“音を取り戻し始めた”。
足音、呼吸、風の音、仲間の気配。
世界が、無音から再起動したのだ。
影の僕は、消える直前に、ほんの少しだけ笑った。
「……ありがとう」
その声だけが、確かに、**“本当の僕自身の声”**だった。
そして――
『終わりの音 第5楽章』
譜面は、光の中から、形を成して現れた。
「残り、あと二つ」
ミユが静かに言った。
「でも……ここからが、本当の“終わり”への道だよ」
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