連載ファンタジー小説『スピの森』⑩
第10章 シンクロに生きる女神・シノ
ミナトが開いた一冊の本から、ふいに風が吹き出した。
紙の匂いと森の湿り気が混ざった風は渦を巻き、その中心から白い布をまとった女性が姿を現す。
「やっと来たのね、アリト」
どこか懐かしい響きの声だった。
その瞳には森の奥の光と影が映り、全てを包み込むような温度があった。
「私はシノ。シンクロニシティの女神」
彼女は微笑み、近づくと僕の胸に手を置く。
「偶然に見える出来事も、すべては必然だったと気づく時が来たの」
「……偶然じゃない?」
僕の声は、半分は問いで、半分は確かめるようだった。
「あなたがここにいること、それすらもあなたが“仕込んだ未来”。
あの日の選択が、今を呼び寄せた」
僕は無意識にポケットを探り、旅の途中で手に入れた、使い道の分からない小さな鍵を取り出す。
シノの瞳がわずかに光った。
「それが次の扉を開くものよ」
鍵は彼女の掌の中で温もりを帯び、脈打つように震えた。
「この森には“まだ出会っていない自分”がいる。
鍵を持つ者だけが、その扉を越えられる」
背後で風が音もなく流れ、木々の間に金色の道が開く。
その先には、形のない光が脈動していた。
シノは布の袖を揺らし、静かに告げた。
「行きなさい。シンクロの流れは、あなたを迷わせない」
僕は頷き、鍵を握りしめて道へ踏み出した。
振り返ったとき、シノの姿はもうなかった。
けれど、胸の奥に残った温もりが、これからの一歩を支えてくれるように感じられた。
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