見出し画像

『チップ戦争』


最初は、ほんの一言だった。

「え、静月さんの記事、無料なんですか?」

コメント欄がざわついた。

「いやいや、あの深さが無料って、なんか落ち着かないです」

 「私は1000円の価値あると思います」 

「いや、3000円払いたい」

静月は困った。

「いや、別に……読んでもらえれば」

しかし、それが火種だった。

最初の一人が、試しに1万円のチップを送った。

「感謝です」

そのスクショが拡散された。

「1万!?」 

「え、そんな出せるんですか?」 

「いや、気持ちの問題でしょ」

次の日。

3万円。 5万円。 10万円。

誰も“作品”を語らない。

語られるのは金額だけだった。

「私は静月思想に50万投じました」

出た。

大口。

コメント欄は震えた。

「さすがです」 

「本気度が違う」 

「覚悟が違う」

すると別の誰かが言った。

「本物の覚悟、見せます」

100万円。

空気が変わった。

その頃、静月は警備員室でカップ麺をすすっていた。

通知が鳴る。

ピコン。 ピコン。 ピコン。

「……何これ」

残高が、桁を間違えている。

もはや承認欲求は理性を超えていた。

「私は1000万」 

「私は2000万」 

「本気とはこういうこと」

もはや哲学は関係なかった。

これはマウントの祭典だった。

そしてついに現れた。

匿名ユーザー。

一言だけ。

「静かに応援しています」

チップ:10億円。

コメント欄は凍った。

誰も超えられない。

戦争は終わった。

静月は画面を見つめた。

しばらく考えた。

そして一文、投稿した。

「皆さん、ありがとうございます。 警備員は続けます。」

そして彼は、
全額を「国語と哲学だけの学校」設立資金に寄付した。

数年後。

校庭で子どもたちが笑っている。

その隅で、警備員の制服を着た男が立っている。

名札は裏返しだった。


誰も知らない。

あのときのチップ戦争で、 彼が億万長者になったことを。

いいなと思ったら応援しよう!

静月 いつも読んでいただき、本当にありがとうございます。皆さまの応援が、静月の物語を生み出す力です。いただいたチップは、すべて次の作品作りに大切に使わせていただきます。