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『内側の住人ーお前は、もう、喰われているー⑯』

最終章 終わりの音

 

最後の扉の先は、何もなかった。
音も、光も、空気さえも、存在しない――無の空間だった。

歩こうとすると、足が沈みそうになった。
まるで、自分の存在そのものが試されているようだった。

 

「ここは、何……?」

 

風はもう、吹いていなかった。
静かすぎて、鼓動の音だけが、やけに大きく響いた。

いや――違う。

聞こえていたのは、誰かの泣き声だった。

 

それは、遠くて、でも確かに――俺自身の泣き声だった。

 

「もうやめたい……」
「誰かになりたくて、誰にもなれなくて……」
「生きるって、なんでこんなに、つらいの……?」

 

声が、胸の奥から漏れた。

それは、ずっと閉じ込めていた“ほんとうの気持ち”だった。
ずっと隠してきた、本当の俺の声だった。

 

すると――風が吹いた。
懐かしくて、あたたかくて、胸がぎゅっとなるような風。

 

そして、誰かの声が重なった。

 

「あなたのままで、生きていいんだよ」
「泣いていい、怒っていい、笑っていい」
「感情は、あなたの光だから」

 

そのとき、世界に音が戻った。

ポン――と、小さな音がして、
俺の足元に、色が咲いた。

青、赤、黄色、緑、そして――涙のような透明。

世界が、音と光を取り戻していく。

 

「終わりの音は、始まりの音でもある」

 

そう、風が囁いた。

 

俺は目を閉じて、静かにその音を聴いた。
心の奥が、あたたかくなって、涙が溢れた。

 

「ありがとう、風」
「ありがとう、俺」
「ありがとう、生きてるすべて」

 

目を開けると、
そこには、色を取り戻した世界が広がっていた。

そして、遠くに誰かが立っていた。

小さな少女――
あのとき、手を振ってくれた子。

彼女は笑っていた。
今度は、ちゃんと名前を呼んでくれた。

 

「ヒカリくん――おかえり」

 

俺は、ゆっくりと歩き出した。

風が吹いた。
それは、終わりと始まりの音だった。

 

――完――

エピローグ 色の名前

 

あれから、どれくらい時間が経ったのだろう。

世界には、音が戻り、風が吹き、
人々は少しずつ、感情を思い出しはじめた。

戸惑いながら、笑いながら、泣きながら。

誰もが、忘れていた「色」を一つずつ拾い集めている。

 

僕の名前は、ヒカリ。

そして――
僕が出会ったあの少女の名前は、「ユイ」。

“結ぶ”という意味を持つ名前だ。

彼女は、いつも言ってくれる。

「ねえ、ヒカリくん。今日の空は、何色だと思う?」

僕は、目を閉じて、心で答える。

「そうだな……今日は、涙を拭いた後の色、かな」

ユイは嬉しそうに笑う。

「それ、きっと“優しさ”の色だね」

 

僕たちは、世界に新しい色の名前をつけている。
それは、誰かの心を照らす、小さな名づけ。

風が吹いた。
音が鳴った。

世界は、今日も生きている。

 


あとがき 終わりの音を、聴いたあなたへ

 

ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました。
この物語『終わりの音を聴いた少年』は、
誰にも言えずに抱えた感情、
声にならなかった想い、
そして、それでも生きてきたあなたのための物語です。

 

「感情なんて、いらない」と言われる時代が、
もしかしたら、本当に来るかもしれません。

効率、合理性、データ、沈黙――
それは世界を安定させるかもしれないけれど、
同時に、かけがえのない何かを失わせる気がしています。

 

この物語を書いたのは、
「感情のある人間って、実はすごい」ということを、
そっと伝えたかったからです。

怒ってもいい。泣いてもいい。笑ってもいい。

誰にも言えない感情こそが、
あなたの中の光だと、私は信じています。

 

物語の中で、ヒカリは言いました。

「ありがとう、俺」

この言葉は、
どうかあなた自身にも届けてほしい、
**あなたの心に向けた“ありがとう”**です。

 

生きててくれて、ありがとう。
ここまでたどり着いてくれて、ありがとう。

また、どこかで、別の物語で――
あなたに出会えますように。

 

――静月より。

 

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