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連載ファンタジー小説『スピの森』⑦

第7章 夜の根と光の芯


森は、音を失った深夜の海のようだった。枝葉が絡まり、星明かりは針のような隙間からしか落ちてこない。足元の土は、日中の熱を手放し、冷たい呼気のような湿りを持っていた。
その静寂の中心に、淡い光の粒が漂っている。
近づくと、粒はひとつにまとまり、形を持たぬ光の塊になった――オオイナルモノ。

耳ではなく、皮膚の下で響く声がした。
『おかえり』
その一言に、背骨の奥が温かく満たされていく。言葉は輪郭を持たず、ただ胸の奥で静かに広がった。


「あなたは誰ですか」
僕の問いは夜気に吸われる。光は形を変えず、ただ波打った。
『それは君が決める』
問いは幾つも浮かび上がる――なぜ生まれたのか、なぜ失ったのか、なぜあの時黙っていたのか。どれも答えはなく、代わりに、その問い自体が柔らかく抱かれる感覚があった。

「答えがないのは、怖い」
『答えがないから、生きられる』


光の中に、これまでの旅の情景が立ち上がる。
ホオポノ婆の炎の揺れ、ナギサの波打ち際、ミナトの書架、セミナの舞台、シンの沈黙、アマナの夜明け、レヴィの水鏡、トオルの坂道、白い鹿の温もり。
それらは出会いではなく、自分の中に眠っていた欠片だった。

『君はもう、君の言葉で歩ける』
頷くと、光はゆっくりと薄れ、代わりに夜の匂いと葉擦れの音が戻ってきた。
深く息を吸うと、空気は冷たくも温かくもなく、ただ“在る”感覚で満たされていた。

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