連載お仕事小説『新聞配達』③
✍️第3章:未来なんて見えなかったけど、今が光ってた。
あの頃の僕には、未来がなかった。
正確に言えば、“未来に期待できない自分”になっていた。
銀行では、数字に削られた。
コンビニでは、心を賭けた恋に大失恋した。
壊れかけた心と身体を、どうにかつなぎとめるために、
僕が選んだのは──「今を生きる仕事」だった。
新聞配達。
ただ、それだけだった。
きっかけは、積立制度。
200万貯めたら、会社が100万上乗せしてくれる。
4年頑張れば、300万。
それだけ貯めて、やめる。
最初から、終わりが見えてる選択だった。
「4年だけやって、辞めます」
入社時に、はっきりそう伝えた。
それなのに、
みんなは笑って迎えてくれた。
慣れない早朝。
寒さに震えながらの配達。
でも、若い仲間たちと走る時間は、なんだか懐かしい放課後みたいだった。
冗談を言い合って、無駄に競争して、
たまにこっそりコンビニ飯をシェアして。
ふとした拍子に、誰かの失恋話で全員黙ってしまったりして。
“あれ? こんなふうに笑ったの、久しぶりだな”
配達なんて、ただの仕事だと思ってた。
だけど気づけば、身体はたくましくなり、
心も少しずつ、重さを脱ぎ捨てていた。
この時期に、初めてYouTubeを知った。
夜、ひとりで見た動画に涙が出て、
「ああ、世界ってまだ、続いてたんだ」って思えた。
毎朝、誰かの家のポストに新聞を入れる。
誰にも感謝されないし、顔を合わせることもない。
でも、“誰かの一日を始める”という感覚が、
いつしか僕の心をあたためていた。
未来は、見えなかった。
でも──
今が、ちゃんと光ってた。
朝日を背に、汗をかいて帰る道で、
僕は何度も立ち止まって、深呼吸をした。
風は冷たいけど、
「ああ、今日は生きてる」って思える朝がある。
それだけで、人ってけっこうやっていけるんだよね。
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