『終わりの音を聴いた少年⑬』
第13章 始まりの音
「わたしを、終わらせて――」
少女の言葉が、空に静かに消えた。
その声は震えていたけれど、どこかで“許し”を求めるような、あたたかい響きを持っていた。
僕はそっと手を伸ばした。
白い譜面が、少女の涙で少しだけ濡れた。
「君は……誰かに拒まれてきた旋律なんかじゃない。
僕たちの音は、ずっと君を探してたんだよ」
少女は、目を見開いた。
そして、少しだけ微笑んだ。
譜面が、ゆっくりと輝き始めた。
今までのすべての音――
僕たち三人が奏でてきた旋律と、少女の持つ“最後の音”がひとつになって、
譜面の上に**第7楽章『始まりの音』**が現れた。
それは“終わり”ではなかった。
すべての痛みと向き合ったあとに生まれる、新しい音だった。
影の本体が、空の裂け目に向かって、崩れ落ちていく。
ネガティブな音の集合体は、最後に一度だけ――
【……アリガトウ】
と、震えるような音で消えていった。
それはまるで、
世界中の“消えた声”たちが、やっと誰かに届いたような、
そんな安堵の音だった。
光が満ちて、世界がゆっくりと静まっていく。
空は戻り、風が吹き、鳥が鳴く。
それは、「音」が日常に還った証。
僕たちはただ、静かにその風景を見ていた。
「……終わったんだね」
ミユがつぶやく。
「ううん、始まったんだよ」
僕は言った。
「世界は、“終わりの音”から“始まりの音”へと変わった。
これからの音は、僕たち次第なんだ」
アキラが笑う。
「じゃあ、しっかり奏でてやろうぜ。
“誰かを癒す音”をさ」
3人は歩き出す。
どこか遠くで、小さなカチ……という音が鳴った。
でも、それはもう不気味ではなかった。
世界のリズムだった。
その夜、僕は夢を見た。
誰かがピアノを弾いていた。
それは、子守唄のような、未来のような音だった。
目を覚ましたとき、
僕の部屋の片隅に、あの“譜面”が置かれていた。
タイトルは、こう書かれていた。
『始まりの音 第一楽章』
そして今日も、僕は歩く。
少しだけ軽くなったリュックを背負って。
空を見上げると、透明な風が流れていた。
“終わり”は、“始まり”だった。
あの日、届かなかった音。
あの時、言えなかった名前。
全部を背負って、それでも歩ける気がした。
終わりの音
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