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元銀行員日記③|本音は全部、心の中で答えていました


銀行員時代、28歳から32歳くらいまでの間、僕は企業内組合の執行部に所属していました。

上場企業には、だいたい企業内組合という組織があります。

従業員と経営側の橋渡しをする存在です。

敵対するというよりも、協力しながらより良い企業をつくっていこうという立場ですね。

銀行側の考えを行員に伝え、行員の意見を吸い上げて銀行側に伝える。

そんな役割です。

僕が福井県の支店にいたとき、当時の執行委員長がわざわざ訪ねてきました。

「来年度から執行部に来てほしい」


今振り返ると、あれは運命の選択でした。

当時はそこまで深く考えていませんでしたが、この決断がその後の人生を大きく変えることになります。

委員長はこう言いました。

「静月さんしかいない。この厳しい局面で役割を全うできるのは」


本音だったんですかね……。

僕はその言葉を粋に感じて、引き受けました。

もしあのとき断っていたら、今頃役員だったかもしれません。

……というのは冗談ですが。

当時の金融業界は、非常に厳しい状況でした。

大きな金融機関の倒産もあり、

「銀行って潰れることがあるんだ」


と多くの人が思い始めた時代です。

経営が安定している銀行に預金しないと危ない。

そんな空気が社会に広がっていました。

僕は、取り付け騒ぎも経験しています。

窓口では定期預金の解約が相次ぎました。

女子行員が泣きながら事務処理をしていた光景を、今でも覚えています。

ほんの小さな噂でも、メディアが報道すると、お客様が一斉に預金を解約しに来る。

そんな時代でした。

そして僕は、まさにその時期に組合執行部に入りました。

執行部の大きな仕事のひとつに

オルグというものがあります。

全国の支店を回り、銀行の考えを行員に伝え、同時に現場の意見を吸い上げる。

いわば現場との対話の場です。

最初のオルグは、まだ平和でした。

金融業界が厳しくなり始めていたとはいえ、

まだ自分たちの処遇が変わったわけではない時期です。

どの支店に行っても雰囲気は和やかでした。

「わざわざ来ていただいて、ありがとうございます」

「今日はオルグのあと、お店予約してありますので、お酒を飲みながら色々お話聞かせてください」


どこの支店でも宴席が設けられ、行員のほとんどが参加してくれました。

正直、ちょっと偉くなった気分を味わえました。


ところが翌年から、状況は一変します。

賞与ゼロ。

給与体系は、年功序列から能力・成果を反映する仕組みに変更。

さらに一般職と総合職の区分が創設されました。


まさにその過渡期に、僕は

賃金担当の副執行委員長


という立場になりました。

組合側の賃金に関するトップです。

最悪です。

いい時代なら、もっとも偉そうにできるポジションです。

僕は、もっとも悪い時代にそのポジションに立ちました。


三年後のオルグ。

銀行から「ボーナスゼロ回答」を受けてのオルグです。

「住宅ローン返せないだろ!」

(知らんがな)

「経営責任はどうなった!」

(あんたに関係あるか)

「御用組合!」

(企業内組合だからな……)

「しっかり交渉しろ!」

(交渉しとるわ)

「どうやって生活したらいいんだ!」

(毎月の高い給料があるだろ。自分で考えろ)

「組合費ゼロにしろ!役立ってないんだから払う意味がない!」

(おまえ、覚えとけ)

こんな意見には、いちいち答えません。

答えると火に油を注ぐだけなので。

最後は、こう言って終わらせます。

「たくさんの貴重なご意見、ありがとうございました。
持ち帰って銀行交渉の場で伝えさせていただきます」


ポイントは、

国会答弁の政治家のように話すこと。

この頃、僕は国会中継を見るのが趣味でした。(笑)


宴席は、ほぼありません。

仮に誘われても、身が持たないので断ります。


……この変わりよう。

人間不信になります。

目がもう、完全に敵を見る目ですから。


翌年のオルグ。

ボーナスゼロ継続

さらに給与体系変更

そんな中でのオルグは、地獄です。

また、生々しく書きます。

「いつになったらボーナス復活するんだ」

(俺も知りたいわ)

「もう生活できない!」

(嘘つけ)

「既得権という言葉知ってるか?」

(知らんな)

「ストライキしろ!」

(頭おかしいんか)




ここからが本当に揉めた話です。

給与体系の変更。

まず、能力や成果を反映させることについて。

書き出すと長くなるので、これだけお伝えします。

文句を言うやつは、だいたい仕事ができない。


そして最後の爆弾が、

一般職・総合職問題。


全部ヤバい問題ですが、

これは一番ヤバい問題でした。


簡単に仕組みを説明します。

銀行員は、基本的に転勤を拒めません。
だから男子行員は、転勤がある前提で入行します。

女子行員にも、転勤前提で入行する四大卒は少数います。
しかし大半は、地元採用の高卒や短大卒です。

ですから就業規則として「転勤なし」と書いてあるわけではないのですが、
慣習として転勤はほぼ無い。
あっても、転居を伴わない程度です。


ところが、この男女で
給与体系の違いが無かった。

するとどうなるか。
一つの支店に長くいるベテラン女性行員は、
給料がかなり高くなる。

「かなり」というのは僕の主観です。
もう覚えていないので、具体的な額は言えません。

ただ、とにかく高い。

ここで
一般職・総合職
を新設する。

これ、何を意味するか。

転勤をしない女子行員の給料を、
下げる目的がある。



これが、はっきり見えてしまう。

もちろん銀行は、ストレートには言いません。

組合も、ストレートには言いません。
というか、
口が裂けても言えません。

言ったら、
生きて帰れなかったかもしれません。




「一般職を選択せざるを得ません」

(そうだろうな)



「女子行員の給料を下げたいだけでしょ」

(そうだろうな)



「給料下げるなら辞めます」

(どうぞ)



「組合の存在意義は?」

(あんたに話してもわからんだろ)



「私たちの給料を守るのが組合の仕事でしょ」

(俺たちがいなかったら、もっと早く下がってるだろうな)



ここで面白いことが起きます。

男子行員は、ほとんど何も言いません。


黙っています。

なぜか。

自分たちは総合職を選ぶので、基本的に何も変わらないからです。

本当に、黙っていればいいのに、

たまに正義感の強い男子行員がこう言い出します。

「女子行員が可哀想じゃないですか」

(おまえ、黙っとけ)




そして最後に僕は、
国会答弁のように言います。

「たくさんの貴重なご意見、ありがとうございました。
持ち帰って、銀行交渉の場で伝えさせていただきます。」


この問題は、まさに
不平等を是正する制度改革が、新しい不満を生むという典型的な例でした。



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