見出し画像

『感情の国ーシロとエモノスたちー④』

第4話 風と涙とナミ

風が吹いていた。優しくて、ちょっとさびしくて、まるでこの世界のどこかが、誰かの涙を探しているようだった。

ナミは、僕の隣で座っていた。
草原の真ん中、空は白くて、音のない鳥がゆっくりと飛んでいた。

「ねえ」
ナミは、ぽつりと言った。
「“感情”って、嬉しいだけじゃないんだね」

僕は少し戸惑った。
「どういう意味?」

ナミは、空を見上げたまま、静かに続けた。

「君と話してるとね、楽しいし、うれしいし……でも、同じくらい、怖くもなるの」
「怖い?」
「うん。だって、“失うかもしれない”って、思っちゃうから」

風が、ナミの髪をふわりと揺らした。
ナミの目が、うっすらと潤んでいた。

「それが“涙”っていうのかな」
そう言って、彼女の頬を一筋の雫が伝った。

僕は何も言えなかった。
この世界に“涙”というものが存在すること。
それがこんなにも美しくて、そして悲しいことだなんて、知らなかった。

「ナミ……僕、君とずっと一緒にいたいよ」
「ありがとう。でも……それは、願いであって、約束じゃないよね」

ナミの言葉は、まるで風だった。
あたたかくて、切なくて、だけど僕の胸に確かに届いた。

風の中、ナミは微笑んだ。
「大丈夫。悲しみを知って、私は少し、大人になった気がするから」

僕はうなずいた。
この世界に“感情”があるなら、それは“涙”と一緒に生まれてくるものなんだ。

そして風が吹いた。
次の場所へ向かう合図みたいに、そっと背中を押してきた。

「またね、ナミ」
「うん。また、風のどこかで」

僕は立ち上がり、歩き出した。
感情という名前の旅が、静かに続いていた。

いいなと思ったら応援しよう!

静月 いつも読んでいただき、本当にありがとうございます。皆さまの応援が、静月の物語を生み出す力です。いただいたチップは、すべて次の作品作りに大切に使わせていただきます。