連載恋愛小説『彼女にまた会うために、エゴたちが会議をはじめた。』④
第4章 「エゴたちの撤収会議」
① 余韻の中の帰り道
「……ありがとう。でも、ごめんなさい」
その声は、真冬の夜みたいに澄んでいて、どこか温かさも含んでいた。
駅までの道は、街灯が点々と続いていた。
僕たちは、並んで歩きながら、どちらもポケットに手を突っ込んだままだった。
横顔を盗み見ても、彼女の表情は柔らかい。だけど、その奥にある線は、二度と越えられない境界のように見えた。
改札前で足を止めると、彼女は笑った。
「体に気をつけてね」
ただ、それだけ。僕は頷くしかなかった。
振り返ったら、彼女はもう人混みに紛れていた。
② エゴたち、緊急招集
【💀 ネガ担当エゴ】
「解散。もう終わりだ。戦況は全滅だ」
【🍼 ピュア担当エゴ】
「でも……笑ってくれたよ? それは嘘じゃないよ?」
【🕶️ イキリ担当エゴ】
「いや、“男”としては完全に負けだ。これ以上粘っても傷口広げるだけだ」
【🛡️ マモリタイ・エゴ】
「……それでも、会えてよかったじゃないか。10年前、終わったままだったページに、ちゃんと句読点を打てた」
【📚 記録係エゴ】
「この痛み、メモっとけ。あとで笑える時が来る」
エゴたちは、まるで戦場からの撤収部隊みたいに、それぞれの持ち場へ帰っていった。
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③ 静かな夜、ひとりの部屋で
部屋に帰ると、灯りを点けずにソファに沈んだ。
テーブルの上には、半分飲みかけのペットボトルの水。
さっきまでの会話や笑い声が、まだ耳の奥に残っている。
僕はスマホを開き、彼女から最後にもらったLINEを見た。
「相変わらず楽しい人ですね🎵」
ふと、笑ってしまった。
この一文は、優しさなのか、遠回しな別れの挨拶なのか。
たぶん、両方なんだろう。
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④心の着地点
人は、未来を手に入れるために過去を手放す。
彼女はそうやって、自分を守ってきたのだと思う。
そして僕は――
想い続けることで、自分を守ってきた。
それが叶わなくても、彼女を想ってきた10年は、無駄じゃなかった。
むしろ、その時間があったから、今の自分がいる。
【🛡️ マモリタイ・エゴ】の声が、最後にもう一度響いた。
「想いは、持ち続けてもいいんだよ。ただ、もう少し軽くして持っていこう」
僕は深く息を吸い、ゆっくりと吐き出した。
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⑤ 終わりじゃなく、区切り
窓の外では、冬の星が静かに瞬いていた。
夜風がカーテンをわずかに揺らし、その音が、妙に優しく響いた。
これでいい。
これは、終わりじゃなく、区切りだ。
パン屋も、10年前の笑顔も、そして今日の夜も――
ぜんぶ、僕の中で生きていく。
そして、もしまた会える日が来たら。
今度は、“想い出”じゃなく、“今”を渡せるように。
僕はスマホを伏せ、灯りを消した。
静かな夜が、ひとつ、終わった。
あとがき
この物語は、十年という時間を隔てて再び交差した二人の心を、僕なりに描き切ったものです。
物語の中で“エゴたち”が騒ぎ、沈黙し、また立ち上がる――その姿は、誰の中にもある小さな会議室みたいなものかもしれません。
出会いと別れは、直線ではなく、ぐるぐると回る環のようにやって来ます。
その中で、どうしても変わらない感情がある。
たとえ届かなくても、たとえ拒まれても、その想いは、その人の心のかたちを作る大切な一部になっていくのだと思います。
この話は、ハッピーエンドではありません。
けれど、僕にとっては“救われた”物語です。
彼女の笑顔も、あの夜の風も、すべてが胸に残る。
それは、もう奪われることのない、僕だけの宝物です。
読んでくださったあなたにも、いつかの夜にふと蘇るような、そんな誰かとの記憶があるかもしれません。
その想いは、消してしまわなくてもいい――ただ、少し軽くして、持ち歩けばいい。
そうすればきっと、未来のどこかでまた、新しい景色に出会えるはずです。
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