連載恋愛小説『彼女にまた会うために、エゴたちが会議をはじめた。』③
第3章「再会と、やさしい拒絶」
① 再会の席
店のガラスに街の灯りが揺れて、グラスの縁が薄く鳴った。十年ぶりの彼女は、昔より少しだけ静かな笑い方をしていた。生ビールの泡が沈む音、テーブルの木目、醤油の匂い――どれも、なぜか懐かしい。
「変わってないね」と僕が言うと、彼女は首を横に振って、「変わったよ」と笑った。その笑い方に、十年分の季節が一度に押し寄せる。
② パン屋という、合図
「ねえ、あのパン屋、まだある?」 彼女が箸を止めてそう言った。たった一行の“合図”に、胸の奥で何かが灯る。僕らが何度も朝に立ち寄った小さな店。焼き立てのチーズパン。あの頃の匂い。
聞きたかったのはパンのことだけじゃない、とすぐにわかった。あの時間は、まだどこかに残っているのか。僕たちの間に、温度は残っているのか――その確認。
③ 目の前で届くLINE
話が弾む。仕事の話、どうでもいい失敗談、あの頃の上司の物まねまで。僕が調子に乗り始めた頃、彼女がスマホを開いて、何かを打ち込んだ。数秒後、僕のスマホが震える。
「相変わらず楽しい人ですね🎵」
目の前にいるのに、LINE。声に出すより、ずっとやさしい。僕が「読んだよ」と笑うと、彼女はグラスを持ち上げて、小さく乾杯の仕草をした。
④ 彼女の十年
「この十年で、恋愛とか……あった?」 僕は聞いてしまう。彼女は箸を置いて、水をひと口飲み、やがて静かに言った。
「三年付き合った人がいた。ほんとに好きだった。タイまで行こうと思ったくらい」 そして、少し間を置いて、「三ヶ月前に別れた」と。
心の底が音もなく沈む。僕は十年、誰にも触れられずに彼女を想ってきた。彼女は三年を、誰かの隣で本気で生きた。その事実の重さを、言葉は追い越せない。
⑤ 晩の余韻と、翌朝の一通
駅までの道、並んで歩く距離は一定で、お互いに一歩分詰めない。別れ際、彼女は少しだけ目を見て笑った。それだけで、来てよかったと思えた。
翌朝、僕は軽い冗談を装ってメッセージを送る。
「あのパン屋、やっぱり閉店してた(笑)」
少しして返ってきた。
「そっかぁ……あのチーズパン、もう一回食べたかったな」 「でも、お店より、あの日が一番おいしかった気がするね(笑)」
文を読み終えたところで、胸のどこかがふっと緩む。あの夜の温度は、たしかにまだ残っている。
🛡️【エゴたちの円卓会議】
「二度目の再会、どう攻めるか?」の巻
👔 ビジネス担当(📊):「礼儀と配慮は最優先。紳士でいけ」
🍼 ピュア担当(👶):「奇跡二回目!これは運命の続きだよ!」
😎 イキリ担当(🕶):「“君の笑顔が忘れられない”って言え」
📎 現実派(🤔):「彼女の状況を尊重。焦って線を越えるな」
💀 ネガ担当(💀):「“優しい人”枠で終わる未来が見える」
🎬 演出家(🎬):「夜の公園、缶コーヒー、沈黙からの告白。絵になる」
💄 モテ幻想(💅):「“その髪型いいね”で距離を半歩詰めろ」
📖 文学担当(📚):「君の一行で、僕の季節が変わる――を言いたい」
📱 連絡担当(📩):「“また会えて嬉しかった”を先に伝える」
🧘 哲学系(🧘♂️):「“関係に名前がない時間”を尊ぶこと」
💡 自己啓発(💡):「言わずに後悔するより、言って受け止めよう」
🧳 逃走準備(🧳):「失敗のエグジット台詞を三つ用意」
🛡️ マモリタイ(🛡️):「届かなくても、向き合えたなら十分だよ」
そして僕は――また告白することにした。
⑥ ごめんなさいの夜
帰り道、少し人の少ない路地で立ち止まる。自販機の明かりが白く、缶コーヒーの金属が夜気を映す。
「俺、もう一度、ちゃんと伝えたいと思ってる」
彼女は目をそらさず、少しだけ間を置いて言った。 「……ありがとう。でも、ごめんなさい」
風の温度が変わる。「私、過去を振り返らないの。過去は、キラキラした想い出のままがいいから」
それは、やさしい拒絶だった。僕は笑ってうなずいたつもりだったが、胸の中では十年前と同じ鈍い音が広がっていた。
🛡️ マモリタイ・エゴが小さく言う。「二度目の敗北。でも、想い続けることも、心の機能なんだ」
改札の手前で、彼女は少しだけ笑って手を振った。その笑顔が答えのすべてだった。振り返ったときには、もう姿はなかった。缶の中のぬるい甘さだけが舌に残る。
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