『感情の国ーシロとエモノスたちー⑰』
第17話 色を取り戻すとき
風が止んだ。
空が、深く静かに、青くなった。
僕の胸の奥――そこにあった“色の源”が、
世界へ、音もなく広がっていくのがわかった。
アルトの風、リナの剣、ナミの涙、エモたちの想い。
すべてが、僕の中に宿っていた。
それは、痛みでもあり、喜びでもあった。
ひとつの感情だけでは、世界はつくれない。
笑うことも、泣くことも、怒ることも、
すべてがあって初めて、僕たちは「人間」になる。
僕は、叫んだ。
「世界よ――もう一度、目を覚ませ!」
その瞬間、
灰色の大地に、赤が走った。
空に、青が流れた。
人々の頬に、桃色が灯り、
瞳に、輝きが戻った。
誰かが笑い、誰かが泣き、
誰かが抱きしめ合っていた。
――世界が、生き返っていた。
僕の名は、シロ。
最後の感情として生まれ、
そして、最初の人間として目覚めた。
今ではもう、みんなの中にも色がある。
怒ってもいい。泣いてもいい。笑ってもいい。
だってそれが、僕たちの“生きている証”だから。
風が吹く。
優しい、あたたかい風が。
その風に乗って、誰かが囁いた。
「ありがとう、シロ」
僕は、そっと微笑んだ。
そして、空を見上げた。
――色が、ある。
こんなにも、美しい世界に。
エピローグ 風は、そこにいる
学校の帰り道、少女が立ち止まった。
小さな花が咲いているのを見つけたからだ。
「ねえ、見て。きれいだね」
隣にいた少年は、笑った。
「うん、きれいだね」
ふたりの言葉に、花が揺れた。
風が吹いたからだ。
その風は、どこか懐かしい香りがした。
温かくて、優しくて、どこまでも自由だった。
世界は今、ちゃんと“色”を持っている。
喜びも、悲しみも、怒りも、愛しさも。
それぞれの色が、それぞれに混ざり合って、
透明だったはずの毎日を、鮮やかに染めている。
風は、今日もどこかで吹いている。
それは、かつて「シロ」と呼ばれた少年の、
魂の記憶かもしれない。
あとがき “色”とは、誰かと生きること
「感情は、面倒だ」
「感情なんて、いらない」
そう思っていた時期が、僕にもありました。
でも、本当は――
感情があるから、誰かを理解しようとするし、
感情があるから、誰かとぶつかっても、許し合える。
“色”とは、感情の比喩であり、
“風”とは、誰かと繋がる対話の象徴です。
この物語は、シロという少年を通して、
僕自身が「感情と共に生きる」ことを選び直すために書きました。
読みながら、
「自分の中に眠っていた感情が、少し動いた気がする」
そう感じてくれたなら――それが何よりの喜びです。
最後まで読んでくれて、ありがとう。
次に風が吹いたとき、
それがあなたの心に届くやさしい風でありますように。
――静月
(完)
※note創作大賞2025では、12ジャンルすべてに作品を投稿しています。
形式は違っても、すべての物語に、ひとつの風が吹いています。
それは、“感情”という名の風。
この物語もまた、その中にあります。
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