『感情の国ーシロとエモノスたちー②』
第2話 風に導かれて
その声を聞いた瞬間、僕は思わず立ち止まった。
目の前を歩いていた透明な大人たちが、何事もなかったように通り過ぎていく。
「……今、誰かが…?」
もちろん誰も答えない。
けれど、確かに胸の奥で“風”が動いた。
「ここじゃない、どこかへ行こう」
もう一度、あの声が囁いた。
風のように、やさしく、けれど背中を押してくる強さで。
僕はその声に、逆らえなかった。
いや、本当は、心のどこかで――ずっと望んでいたのかもしれない。
“ここじゃない、どこか”を。
その日、僕は家に帰らなかった。
学校にも行かなかった。
透明な街を抜けて、誰もいない川辺に立った。
風が草を揺らしていた。水面に波紋が広がっていた。
そのすべてが、僕には眩しかった。
「君には、“心”があるんだね」
声がした。
今度は、外からだった。
振り返ると、そこにひとりの女の子がいた。
同じ年くらい。でも、髪の毛が青くて、瞳が不思議な光を宿していた。
彼女は、僕をまっすぐに見つめて言った。
「私はリナ。感情を見ることができる剣士よ」
僕は――このときから、世界が少しだけ“色づいていく”のを感じ始めていた。
いいなと思ったら応援しよう!
いつも読んでいただき、本当にありがとうございます。皆さまの応援が、静月の物語を生み出す力です。いただいたチップは、すべて次の作品作りに大切に使わせていただきます。
