短編小説「街灯の祈り」
夜が落ちるたび、ぼくはまた目を覚ます。
昼間は誰にも見向きされず、無力な鉄の柱にすぎない。
けれど闇が降りると同時に、ぼくの命は点り、街角を照らす。
カチ、と微かな音とともに灯が生まれる瞬間。
それは息を吸い込むような感覚だ。
光が走り、冷えた体を中から温めていく。
ぼくの足元を、無数の靴が過ぎていく。
仕事帰りの疲れた足取り。
寄り添う二人の軽やかな歩幅。
泣きじゃくる子どもを抱えた母親。
ぼくは話すことも触れることもできない。
ただ光を投げかけるだけだ。
それでも、ひととき彼らが足を止め、顔を上げる。
「ここ、少し明るいね」
そう呟かれた夜は、胸の奥がふっとあたたかくなる。
時には、ぼくの光が彼らの涙を映すこともある。
影が震えて、声が漏れて、立ち尽くす背中を照らす。
慰められない。手を差し伸べられない。
けれど、闇の中で一人にしないことだけはできる。
風にさらされ、雨に打たれ、いつかは錆びて壊れるだろう。
けれどその日まで、ぼくはただ、夜を照らし続けたい。
光は言葉にならない祈り。
「あなたが無事に帰れますように」
その一心で、ぼくは今日もまた目を覚ます。
静月
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