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ゲーム短編小説集①『インベーダー』

はじめに

昭和の喫茶店——コーヒーの香りとタバコの煙が混ざる空間に、異彩を放つ光の箱があった。
それが、僕の人生初のテレビゲーム「スペースインベーダー」。
小学五年生のある日、僕は“地球を守る使命”に突き動かされ、母ちゃんの財布からこっそり硬貨を拝借。
学校帰り、喫茶店の隅に置かれた台にコインを入れるたび、心臓がドキドキした。
ピコピコと響く音、徐々に迫るインベーダーの列。あれは、まさに僕だけの宇宙戦争だった。

説明

スペースインベーダーは、1978年に誕生したアーケードゲームの金字塔。

プレイヤーは一台の砲台を左右に動かし、上からじわじわ迫ってくるインベーダー(宇宙人)を撃ち落とす。

単純なルールなのに、やればやるほど熱中し、気づけば小銭が消えていく——そんな魔性の魅力を持っていた。

当時の喫茶店は、コーヒー片手にインベーダーと格闘する若者であふれ、静月少年もその一人。

ただし、コーヒーではなく、メロンソーダ派だったのは内緒だ(笑)

懐かしー

ホラー短編小説:狂気のスコア


健司は、ここ数ヶ月ほとんど笑っていなかった。

上司の冗談にも、テレビのバラエティにも、子どものふざけた仕草にも反応がない。

同僚からは「お前、表情筋どうした?」と笑われても、眉一つ動かさなかった。


その理由はひとつ――インベーダーゲーム。

退勤後、駅前の古びた喫茶店の奥にある筐体へ直行し、席につくと、

世界はそこだけになった。

手元のレバーとボタン、そして画面上で迫りくるインベーダー。

健司の呼吸は浅く、瞬きは極端に減っていく。


笑うのは、ただひとつの瞬間だけ。

右上からゆっくりと現れる赤いUFOを撃ち落としたとき――


「ひ…ひひひ…ひゃはっ…ひひひひひっ…」

「ひゃ…ひゃはは…はっ…ひひひひひっ…!」

「ひひひっ…ひゃはっ…ひひひひひひひっ…!」


ミステリー短編「ハイスコアの代償」


駅前の喫茶「コスモ」。

窓際のインベーダー台は、今日も電子音を弾ませている。

ハイスコアの常連・健が、右上から滑るUFOを落とした瞬間、拍手が起きた。


「また更新かよ、昔から勝てねえわ」

部活仲間の慎二が笑い、左手で健の肩を軽く小突く。テーピングの巻かれた左手は、いつもより強張って見えた。


「ほんと、すごいね」

元カノの美香はトレーを抱えたまま、少しだけ笑顔を固くする。

「…最近、眠れてないんでしょ? 砂糖、もう一個入れとくね」


隅の席の徹は、煙草をもみ消しながら視線だけで画面を追っていた。

「見てる方が緊張するよ。ほら、息してる?」

健は返事もせず、レバーとボタンに集中する。


閉店間際、健はコーヒーを一口飲み、席を立った。

「外で風、吸ってくる」

ドアのベルが鳴り、夜気が流れ込む。


十分後、悲鳴。

裏手の階段で、健が倒れていた。後頭部に打撲痕。救急車が赤を滲ませる。



刑事の村上は、三人から順に話を聞いた。


慎二は言う。「外で電話してました。試合の連絡っす」

左利きの彼の拳は綺麗で、関節の傷もない。裏階段の血痕は段鼻に一致、殴打より転落が濃い。


徹は、「裏口で一服してました」と灰皿を示した。

だが喫煙所の灰皿は満杯のまま。店の監視カメラには、徹がカウンター横でマッチを擦る姿が映っている。外に出ていない。


最後に美香。

「ラストオーダーを片付けてたら、悲鳴がして…私、何も」

村上はトレーに目をやる。健のカップが戻されていた。縁に口紅。中はほとんど飲み切られている。


鑑識の報告が上がる。

致死は後頭部の打撲。だが胃内容物から睡眠導入薬の成分が微量検出。

量は少ない。自力歩行はできるが、足元は確実にふらつく量。


村上はマスターに確認した。

「砂糖はどこで?」

「カウンターです。今日はひと袋、落として割れたから捨てました」

ゴミ箱から出てきたのは、破れた砂糖袋──粉の粒子が少し青い。砂糖ではない。砕かれた錠剤が混ざっていた。


「眠れてないんでしょ? 砂糖、もう一個入れとくね」

村上の脳裏に、美香の言葉が重なる。彼女は近くのドラッグストアで働いている。レシートの控えにはその店名。

閉店一時間前、**睡眠導入薬・ODP(口腔内崩壊錠)**の購入記録。しかも現金。


「なぜ“砂糖”をあなたが運んだ?」

村上が問うと、美香は唇を噛んだ。

「…彼、最近眠れてないって…少しでも落ち着けばって……」


「彼はあなたのカップから飲んでいる。口紅の跡が残ったままね。甘さの違いには気づきにくい」

村上は淡々と続ける。

「薬で足をふらつかせて、裏階段に誘導した。転んだのは事故に見える。あなたは“何もしていない”と言える」


店内は静まり返った。慎二が目を丸くする。徹は視線を落とす。


「…ハイスコア、ばかみたいに自慢して…」

美香は小さく笑い、すぐにその表情が崩れた。

「私の前でも、ゲームの話しかしなくなったの。もう、何を話しても届かなくて…」


村上は手錠を取り出した。

「動機はどうであれ、人を転ばせるために薬を使えば、それは立派な故意です」


外は、最後のネオンが眠りにつく時間だった。

インベーダー台の画面には、健のハイスコアがそのまま残っている。

UFOは、いつもと同じ速度で、ゆっくり右から左へ流れていった。


恋愛短編小説「ハイスコアの約束」


喫茶店の奥、インベーダーゲームの筐体前で、僕と美咲は並んで立っていた。

彼女はコーヒーを両手で包み込みながら、僕のプレイを見守っている。

「今日こそ抜くからね」

そう言ったのは、美咲の記録。9990点。あれ以来、誰も破れない“伝説のスコア”だった。


彼女がその記録を出したのは、僕たちがまだ付き合う前。

当時の僕は、ただの常連仲間だった。

でも、その日を境に、美咲は僕の中で特別な存在になった。


三回目のUFOを撃ち落とし、スコアは8000点を越えた。

心臓がうるさい。

残りのシールドはわずか。最後の1機でギリギリの戦いが続く。

美咲は笑っているが、どこか挑発的だ。


――そして、運命の瞬間。

UFOが画面右端に現れ、僕は反射的に撃った。

ピュン!と音が鳴り、スコアが一気に跳ね上がる。


「9990点…同点だね」

息を飲む僕に、美咲が顔を寄せる。

「約束、覚えてる?」

彼女が言う。

“私のスコアを抜いたら、デートしてあげる”――あの日の冗談。


僕は笑って答えた。

「同点でも、約束は有効?」

「どうしようかな…」

美咲は少しだけ考えて、画面のクレジットボタンを押した。

「じゃあ、もう一回勝負。負けた方が、デート代全部ね」


ゲームが始まる。

僕はコントローラーを握りながら、この戦いの結末は、もう決まっているような気がしていた。


ファンタジー短編小説「星々の侵略者」


ゲームセンターの奥、埃をかぶった古いインベーダー筐体がひっそりと置かれていた。
画面は薄暗く、かすかなノイズ音が漂う。
少年・真司がコインを入れた瞬間、画面のドットが激しく明滅し、周囲の空気が歪む。

気づけば、彼は星空の下に立っていた。
見上げると、巨大な艦隊がゆっくりと降下してくる。
ゲームの中でしか見たことのない、あの編隊だ。

手には見慣れぬレーザー銃が握られている。
「撃て」
低い声が耳元で響いた。振り返ると、透明な人影が微笑んでいた。

真司は引き金を引き、光の矢が夜空を裂く。
艦隊が一隻ずつ爆ぜ、光の花が星々の間に咲いた。

気づけばまたゲームセンター。
スコアは「999999」で点滅していた。
ポケットの中には、見知らぬ銀色のコインが一枚。
その刻印は、さっきまで戦っていた星の形をしていた──。



お仕事短編小説「インベーダー修理人」

昭和の香り漂う商店街の一角に、小さな電気修理屋があった。

店主の田辺は、もと街一番のゲームセンターの店長で、今は壊れた家電や古いゲーム機を直す仕事をしている。


ある日、常連の高校生が埃まみれのインベーダーゲーム筐体を押してきた。

「動くようにしてほしいんです」

田辺は懐かしさに胸が熱くなり、仕事そっちのけで修理に没頭した。


基板の半田を直し、ブラウン管を磨き、最後にコイン投入口を調整する。

やっと電源を入れると、画面には昔のままの侵略者たちが整列して現れた。


田辺は思わずスタートボタンを押した。

画面の中で、自分のハイスコア「83240」がまだ残っている。

その数字を見つめながら、若い頃、夜通し対戦した仲間たちの顔がよみがえった。


「やっぱり、この仕事はやめられんな」

そう呟き、田辺は再びスティックを握った。

カチャカチャと小気味いい音が、商店街の夜に響き続けた──。


あとがき

今回は、昭和の喫茶店カルチャーと共にあった「インベーダーゲーム」を軸に、ホラー・ミステリー・恋愛・ファンタジー・お仕事の五つの物語を紡ぎました。

昭和50年代、母ちゃんの財布からこっそり小銭を拝借し、近所の喫茶店のテーブル筐体で熱中。UFOを落とすたびにガッツポーズしたあの日々は、まるで昨日のことのように鮮やかです。

今回の五作品は、そんな「画面の向こうの世界」に吸い込まれる感覚と、それぞれのジャンルならではの解釈を盛り込みました。

あなたは、どの物語のインベーダーに撃ち落とされましたか?



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