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連載ファンタジー小説『スピの森』⑬

第13章 光の根と森の鼓動


森の端を越えたとき、アリトは空気の密度が変わったのを感じた。
肌に張りつく重みと、低い振動が骨を震わせる。それは風でも波でもない。遠くから呼び寄せられるような、内側からの響きだった。

足元の雪は薄くなり、若木の葉が凍りながらも緑を残している。
その中心に、あの杖が突き立っていた。握った瞬間、指先にじんわりと温もりが広がる。
エンが後ろから追いつき、息を整えながら微笑む。
「ここまで来たんだね」
彼女の頬には雪の粒が残り、それが瞬きのたびに光を散らす。

視線の先に、淡く揺れる光――オオイナルモノが立っていた。
かつて森の奥で見たときよりも輪郭がはっきりしている。
キララが一歩前に出て耳飾りに触れると、小さく鈴の音が鳴り、それに呼応するように光が脈動を強めた。
セミナは震える指先を胸の前で組み、「舞台の幕が上がる前みたい」と呟く。
シノは静かに目を閉じ、「偶然じゃないわ、全部がこの瞬間のためだったの」と告げる。

アリトの胸に、これまでの旅が一気に押し寄せる。
ホオポノ婆の炎、ナギサの波打ち際、ミナトの書架、セミナの舞台、シンの沈黙、アマナの夜明け、レヴィの水鏡、トオルの足音、白い鹿のまなざし、そしてシノの微笑み――。
それらすべてが、一本の糸のように胸の中心で撚られていく。

杖を引き抜くと、足元の雪と土がわずかに沈み、若木の枝先から光が立ち上った。
枝は裂けることなく芽吹くように広がり、冷気の中でも柔らかい緑を宿している。
その光がオオイナルモノへ向かって道を描き、森の奥へと伸びていく。

「行こう」
アリトの声に、仲間たちは迷わず頷く。
その先にあるのが終わりか始まりか――まだ誰も知らない。

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