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『内側の住人ーお前は、もう、喰われているー⑪』

第11章 沈黙のなかの目覚め

 

目を開けたとき、あたりは真っ黒だった。

上下も、左右もわからない。
音も、風も、温度さえもない。
あるのはただ、自分の鼓動だけ。

「……ここは、どこだ?」

声に出しても、音が返ってこない。
吸い込まれるような無音の世界。
まるで、自分という存在だけが、ぽつりと浮いている。

 

そのとき――
かすかに、「コツン……」という音が、どこからか聞こえた。

誰かが、床を叩いたような音。
でも、床なんてないはずなのに。

 

「……いるのか?」

俺はその音のする方へ、歩き出す。
足元には何も感じないのに、なぜか前に進めた。

 

そして、闇の中に浮かぶ“影”が見えた。

ひとりの少女。
椅子に座り、こちらを見ている。

けれど、彼女の顔には“目”がなかった。
空洞のように、ぽっかりと黒い。

 

「ようやく来たね」

口だけが、確かに動いた。

「思い出せる? あなたは誰?」

 

俺は言葉を失った。

彼女は、俺の記憶の中にいた誰か。
だが、その顔が思い出せない。
名前も、声も、すべてが、もやに包まれている。

 

「ここは、“思い出の外”よ。
忘れたものが、形を変えて、あなたを待っている」

彼女の声は、静かに続いた。

「もう、逃げられない。
次に開く扉は、“本当の自分”に繋がってる」

 

その言葉と同時に、彼女の背後に、古びたドアが現れた。

重そうな木の扉。
開けてしまったら、戻れない気がする。

 

「行くしか……ない、か」

俺は、震える手で、ドアノブに触れた。

 

――ギィィィ……

 

音を立てて、ドアが開く。

その先には、“俺がずっと見ないふりをしていた何か”が待っていた。

 

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