連載ファンタジー小説『スピの森』③
第3章 言葉は空を飛ぶ
① ピンクの空とハートの浮遊石
光の扉をくぐった瞬間、アリトは目を細めた。
世界は一変していた。空はピンク、風は甘い香りを運び、足元に咲く草花には、すべて小さな言葉が浮かんでいた。
「今日も、よく生きてるねっ☆」
「あなたはそのままで、十分!」
(ここ、また“あのタイプ”の空間か……)
そう察した瞬間、
どこかで見たことのある――というか、見覚えありすぎるシルエットが現れた。
② キララ、自己紹介が宇宙規模☆
「ようこそ〜!スピの森へ〜っ☆」
浮遊するハート型の岩の上。
虹色の髪、フリルの服、キラキラした目。
アリトは思わずため息をついた。
「……またそのテンションかよ、キララ」
「うんっ♡ これが私の通常モードなんだもんっ☆」
「今日も最高っ!宇宙は味方っ!!✨」
彼女はターンしながら、空にスパンコールみたいな言葉をまき散らす。
「感謝は、奇跡のスイッチ☆」
「ネガティブ?まさか、言ってないよね〜?♡」
「一応確認するけど、お前……“森そのもの”でもあるって言ってたよな?」
「そだよっ♡ 私は“森”で、“内なる声”で、“アファメーションの精”で〜……」
「愛と光の存在ですっ☆」
(テンション高いけど、間違ってはいないのが腹立つ)
アリトが小さく呟いた。
「なんか……疲れた……」
\ブブブブブーーーッ!!!/
頭上に「−5 宇宙ポイント」の表示が浮かぶ。
キララはにこっとして、指を振った。
「言霊ナメたらダメだよ〜?」
③ 宇宙ポイント、いきなりマイナス!?
アリトは口を開こうとして、つぶやいてしまった。
「なんか……派手すぎて、疲れる……」
すると、頭上にブブーッという音とともに、赤い文字が浮かんだ。
【−5 宇宙ポイント】
「……は?」
キララは人差し指を立てて笑った。
「“疲れる”は禁止ワードっ☆ 言霊ナメたら、宇宙ポイント削られちゃうからね♡」
アリトは呆れたように首を振った。
「マジかよ、どんなルールだよ……」
\ブブーーーッ!!/
【−7 宇宙ポイント】
キララはくるっと回って、にこにこしながら言った。
「あなた、まだ何にも分かってないみたいだね? 大丈夫っ♡ キララ先生が、宇宙的な愛で指導してあげるっ☆」
アリトは思った。
この森……まともじゃない。
④ ネガティブ禁止条例発令♡
キララは浮遊石からひらりと舞い降り、ふわっとアリトの前に立った。
歩いたというより、地面に触れずに滑ってきたように見える。
「この森ではね〜、“ネガティブワード”は一発アウトなんだよ〜♡」
アリトの後ろ、森の木々がざわざわと笑っているように揺れた。
花びらがふわりとアリトの肩に落ちて、すぐに溶ける。
「“疲れた”とか、“ムリ”とか、“終わってる”とか──ダ・メ・絶・対♡」
彼女は指でハートを作ると、その中に何かを光らせてみせた。
それは“言葉”だった。
「言葉には“宇宙波動レベル”ってのがあってね、マイナス波動が多いと──人生、詰むの!」
「……いや、そんな世界、俺の知ってる現実じゃないんだけど……」
\ブブーーッ!/【−6 宇宙ポイント】
「マジで減るのかよ……」
⑤ “どうせムリ”は魔法を消す言葉
歩きながら話すキララの足元には、言葉の花が咲いていた。
「ありがとう」「楽しい」「愛してる」──そんな言葉が、文字のまま、花びらになって咲いている。
「ポジティブな言葉を使えば、未来が変わる。
それが“言霊の法則”なんだよ☆」
キララが指を弾くと、花びらが空に舞い、空のピンクが虹色の波紋に変わる。
一瞬、時空すら揺れたように感じた。
アリトは小さくつぶやいた。
「……どうせ、俺には無理だけどな……」
その瞬間。
空の虹が、パキンと割れて、花びらが一斉に枯れ落ちた。
\ブブブブブーーーッ!!!/【−15 宇宙ポイント】
キララの笑顔がふっと消えた。
その目が、一瞬だけ、静かに揺れる。
「……アリト。
“どうせムリ”って言葉はね、
自分にかける“呪い”なんだよ。」
アリトは、言葉を失った。
キララは肩をすくめて、パッと明るく顔を上げた。
「ま、でもねっ♡ 私は、愛と光の存在ですっ☆ だから大丈夫!」
再び虹色のスパンコールが空に散る。
⑥ ポジティブな嘘 vs 正直な本音
虹色のスパンコールが空に舞い上がったあと、キララはくるりと一回転してアリトに向き直った。
その笑顔はいつもどおりキラキラしていたけれど、どこか奥のほうで“揺れている”ように見えた。
「じゃあさ、“今日も最高〜っ♡”って言ってみて?」
アリトは戸惑った。
そんな言葉、言ったこともない。
「……最高じゃねえし」
\ブブーーーッ!/【−5 宇宙ポイント】
「じゃあ“悪くはない”でもいい。
嘘じゃなくていいから、せめて、自分を責めないで?」
キララはそう言って、ひとつ膝をついて、アリトと目線を合わせた。
その声は、不思議なほどにやさしかった。
「ポジティブな“嘘”より、
ネガティブだけど“正直な本音”のほうが、
宇宙は好きなんだよ。」
アリトは、息をのんだ。
この森は、ただフワフワした夢の場所じゃない。
「言葉って……こえーな」
\ピコーン♪/【+1 宇宙ポイント】
キララは小さく拍手した。
⑦ キララ、急に哲学的になる(笑)
「今の、“こえーな”って言葉……本音だったよね?」
キララは、静かにそう言った。
いつものフリフリしたテンションじゃない。
声が、急に大人びている。
アリトは驚いた。
彼女の“キラキラ”が、今はまるで、深海の静けさのように見える。
「言葉ってね──ただの音じゃない。
感情の入れ物なの。」
キララは浮遊石の上に戻ると、指を鳴らした。
空中に、白い小瓶が浮かび上がる。
中には、光る文字が入っていた。
「“希望”って言葉には、希望の“感情”が宿る。
“絶望”って言葉には、絶望が入る。
でも、“怖い”って言葉には、“目をそらしてない勇気”があるの。」
アリトは黙って、それを聞いた。
⑧ アリト、言葉の力に震える
キララはアリトの手をとって、空へと浮かび上がった。
そのまま、スピの森の上空をゆっくり漂う。
下には、今まで彼が歩いてきた道が見える。
出会った仲間たち、咲いていた言葉の花、そして──彼自身。
「ねえアリト。“あなた自身の言葉”を、いちばん聞いてるのって、誰だと思う?」
アリトは答えた。
「……自分、か?」
キララは、嬉しそうに微笑む。
「そう。“あなたの脳”は、あなたの口から出た言葉を、
“誰よりも信じてる”の。」
「つまり……俺が“無理だ”って言えば、
俺の世界は“無理な現実”に変わる……?」
「そういうこと♡ でもね、逆に言えば──」
キララは、空を見上げた。
「“怖い”って言葉を出せたあなたには、
もう、“変わる準備”ができてるってこと。」
アリトは、何かが胸に引っかかるのを感じた。
⑨ アファメーションカードの贈り物
森の中央に、一枚の光るカードがふわりと舞い降りてきた。
キララが手に取り、アリトへ差し出す。
「これは、“アファメーション・カード”。
自分への“宣言”をひとつ、書き込んでいいよ♡」
カードは空白だった。
アリトはしばらく迷い、そっと一行だけ書いた。
『自分には、変わる価値がある』
書き終えた瞬間、カードが光り、空高く舞い上がった。
森の花が咲き乱れ、空が金色の波紋を描いた。
\ピコーーーン♪♪♪/【+33 宇宙ポイント】
キララがふわっと笑う。
「いい言葉♡ それ、“自分の心”が一番聞きたがってたやつだよ」
⑩ キララがくれた“ほんとの声”
花びらが舞い、森が金色の夕陽に染まる。
キララは、アリトに背を向けて、森の奥へと歩きはじめた。
その足取りは、どこか“消えていくような”雰囲気をまとっていた。
「これでキララ先生のお仕事は、ひとまず終了〜っ♡」
「……もう会えないのか?」
キララは振り返り、ウィンクした。
「言葉に迷ったら、また浮かぶかもね☆
だって私は、“あなたの中の声”なんだから」
アリトは一歩、キララに近づこうとしたが、
彼女はふっと光に溶けて、消えた。
花びらだけが、彼の肩に残った。
そこに、うっすらと文字が浮かんでいた。
『今日も最高。宇宙は応援してる。』
アリトは、苦笑しながらつぶやいた。
「……言ってみるか、たまには」
森が、優しく揺れた。
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