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『内側の住人ーお前は、もう、喰われているー⑧』

第8章 「おかえり」の声

 

赤い部屋のドアは、音もなく開かれていた。
中からは、誰かの足音が――静かに、ゆっくりと、こちらへ近づいてくる。
そのたびに、心臓の鼓動が、自分の耳の中で爆音のように響いた。

 

でも、足音はひとつしかなかった。

 

俺は、ふと気づいた。
「この家には、もう俺しかいないはずだ」と。
なのに、その“ひとつの足音”は、自分のものじゃなかった。

足音が止まる。

赤い部屋の入り口に、誰かが立っていた。

 

「――おかえり」

 

その声を、俺は知っていた。
遠い昔、誰かが毎日くれた言葉。
温かくて、優しくて、でも今は、どうしようもなく怖い。

振り返ると、そこには少女が立っていた。
絵日記の中にいた、あの少女と、同じ顔だった。
でも――目だけが、違っていた。

まるで、底のない暗闇のように、黒く、濁っていた。

 

「まってたの。ずっと、ずっと――」

少女は微笑んだ。
口元だけが笑っていて、目はまるで動かなかった。
その違和感が、脳の奥を鈍く締めつける。

俺は一歩、後ずさる。

「こっち、きてよ。いっしょに――ね?」

その言葉と同時に、少女の足音が、また近づいてくる。

カツ、カツ、カツ。

一歩ごとに、世界の色が、少しずつ、赤く染まっていった。

 

そして、気づいた。

この家の“内側”にいたのは――
ずっと、俺だったのかもしれないと。

 

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