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『椅子と風だけで、世界をまわってきました ― 計193ヵ国、妄想一周旅行 ―』②

🇯🇵 第1話:日本:出発前に、トイレは済ませましたか?

風の切符は、本当に届いた。
宛名もなく、ただ封筒に「旅立つ人へ」とだけ書かれていた。

説明書きには、こうあった。

「この椅子に座ったまま、目を閉じてください。
旅は、風とともに始まります。」

疑っていた。
でも、どこかで信じていた。
なにより、ちょっと疲れていた。

深く息を吸い、椅子に腰を下ろす。
目を閉じて、静かに風を待つ。

……その前に、ふと思った。
「やっぱり、先にトイレ行っとけばよかった」

それが、僕の世界一周の最初のセリフだった。


しばらくして、風が吹いた。
窓は閉めていたはずなのに、肌に風が触れた。
静かな風。だけど、たしかに僕を連れていく風だった。

ふわりと身体が浮いたような感覚――
目を開けると、そこには見慣れた景色が広がっていた。

日本。

だけど、いつもの日本じゃない。
どこか、見慣れていたはずの場所が美しく見えた。
浴衣の人々が歩く温泉街、湯気の向こうに笑顔。
遠くから聞こえるはしゃぎ声。
足元には、白い石畳と、ぽたぽたと滴る湯の音。

そうか。
旅って、「知ってる場所をもう一度見つめ直すこと」かもしれない。
世界一周のはじまりは、自分の国を見直す時間だった。



群馬・草津温泉にて

🇫🇷 第2話:フランス:ボンジュールって言ったらクロワッサン出てきた

目を開けると、そこは石畳の路地裏だった。

細い道の両側に、小さなカフェが並んでいる。
空気はほんのり焼きたてのパンの匂い。
目の前の店のテラス席で、白髪のマダムがこちらに手を振った。

「ボンジュール!」

僕も、とっさに返す。

「ボ、ボンジュール……!」

すると、笑顔の店員がクロワッサンを差し出してくれた。
バターがじゅわっと溶けて、サクサクの皮から温もりがこぼれる。

言葉って、こんなにおいしかったっけ。

マダムが僕の顔を覗き込み、にっこり笑った。

「あなた、初めての“世界”ね」

そのとき初めて、僕は旅人になった気がした。


🇫🇷 Version française

Quand j’ai ouvert les yeux, je me suis retrouvé dans une ruelle pavée.
De chaque côté du chemin étroit, de petits cafés s'alignaient.
Dans l’air flottait le parfum doux du pain fraîchement sorti du four.
Une dame aux cheveux blancs, assise à la terrasse d’un bistrot, m’a fait un signe de la main.

« Bonjour ! »

Instinctivement, j’ai répondu :

« Bo… bonjour… »

Un serveur souriant m’a aussitôt tendu un croissant.
Le beurre fondait doucement, et la chaleur s’échappait de la pâte croustillante.

Je ne savais pas que les mots pouvaient avoir un goût aussi délicieux.

La dame a penché la tête vers moi et m’a souri.

« C’est votre première fois dans le monde, n’est-ce pas ? »

C’est à ce moment-là que je me suis senti, pour la première fois, comme un véritable voyageur.



パリ・マレ地区にて

🔜 次回予告

予告しない(笑)
でも誰でも、次の国を目次でこっそりのぞける。
けど、のぞかずに読むと「偶然の出会い」が楽しめる。

※まだ読んでない方はこちらから
🌏 はじめに&全193ヵ国の目次 → 🔗 [こちら]
https://note.com/joyful_garlic519/n/n04114fc08c73

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