『感情の国ーシロとエモノスたちー⑥』
第6話 色のついた涙
クロと別れてから、僕は、しばらく歩けなかった。
胸の奥に、黒い何かが残っていた。それは、怒りでも悲しみでもない――“濁った涙”のようなものだった。
泣きたいのに泣けない。苦しいのに、言葉にできない。
ただ、目の奥が熱くて、風の音すら遠くに感じていた。
そのときだった。
「大丈夫?」
振り返ると、そこにナミがいた。
ほんの少し前に別れたばかりのはずなのに、その声はやけに優しくて、遠くから届いたように感じた。
「……ナミ」
僕は、言葉が出なかった。ただ顔を見て、安心して、でもすぐにまた苦しくなった。
ナミは何も言わず、隣に座った。風が草を揺らす音だけが、二人の間を流れていた。
「クロに会ったんだ」
「……うん、わかる。顔を見たら、少しだけ変わってた気がした」
僕は目を伏せた。言葉を出そうとすると、喉の奥がぎゅっと詰まる。
そんな僕を見て、ナミがそっと言った。
「涙ってね、自分を取り戻すためにあるんだよ」
その言葉は、静かだけど、芯があった。
心の奥の、まだ言葉にならない場所に届いた気がした。
「……取り戻す?」
「うん。ぐちゃぐちゃになった感情を、ゆっくり外に流して、自分の形を思い出すために」
僕の目から、一粒の涙が落ちた。
さっきまで、出なかったのに。不思議だった。
「わたしもね、よくわからなかった。でも、あなたと話すと、涙が出る。そうすると、自分が“生きてる”って感じるの」
僕は、風の音を聞いた。ナミの声と混ざって、どこか懐かしい歌のようだった。
「ナミ……ありがとう」
「大丈夫。涙ってね、ちゃんと出たら、それだけで意味があるの」
僕の頬を伝った涙は、今度は少しあたたかくて、ほんのり青かった。
たぶん、それが“僕の色”なんだと思った。
風がまた吹いた。
空が少しだけ明るくなった気がした。
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