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『内側の住人ーお前は、もう、喰われているー⑩』

第10章 崩れる家と、あの日の記憶

 

壁が崩れ落ちた瞬間、あたりの空気が変わった。
それまでの湿った静寂が破れ、何かがざわめき始めた。
まるで“この家”が、目を覚ましたかのように。

 

崩れた壁の向こうには、小さな部屋があった。
何もない、白い部屋。
だが、その中央に、ひとつだけ――小さな木箱が置かれていた。

 

俺はゆっくりと近づき、その箱を開けた。

 

中には、写真が一枚。

それは、幼いころの俺が、誰かと笑っている写真だった。
となりにいるのは、女の子。
見覚えがある。けれど、名前が出てこない。
でも――胸の奥が、確かに温かくなった。

 

その瞬間、床が揺れた。
天井から、何かが落ちてくる。
慌てて写真を握りしめた俺の耳に、あの声が、再び響いた。

 

「おぼえてる? あの日、手を離したのは、あなた……」

 

一瞬、空気が止まった。

 

「……え?」

 

「ずっと、待ってたのに。ずっと、ここで……」

 

部屋が崩れていく中、俺の頭の中に、断片的な記憶が戻ってくる。

大雨の日。
手を繋いでいた。
でも俺は、怖くなって、手を離した。

彼女は、そのまま――

 

「……違う! 違う、俺は、そんなつもりじゃ――!」

 

だが、もう遅かった。
床が崩れ、俺の身体は、闇の底へと吸い込まれていった。

 

落ちていく途中、俺はかすかに彼女の声を聴いた。

「もう、ここには戻ってこないでね……」

 

そして、全てが暗転した。

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