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『感情の国ーシロとエモノスたちー⑦』

第7話 名前をくれた日

 

ナミと別れてから、僕はゆっくりと歩いていた。

頬に残る涙のぬくもりは、まだ消えずにいた。
その温度が、僕の心の奥にある“何か”を少しずつとかしていく。

 

(僕は……誰なんだろう)

ナミの言葉が残っていた。

「涙って、自分を取り戻すためにあるんだよ」

でも僕は、自分の“名前”すら――まだ知らなかった。

 

そんなときだった。

突然、空から何かがふわりと落ちてきた。

それは、一枚の“白い羽根”。

触れた瞬間、羽根が小さく光った。

 

「よう。おまえ、名前を探してるのか?」

声がした。振り向くと、そこには――“鳥のような少年”が立っていた。

 

羽のマントをまとい、瞳がキラキラしていて、笑顔がやけに自由だった。

「俺はハネ。風の国のメッセンジャーだ。
 おまえ、まだ“名前”がないんだろ?」

僕はうなずいた。

 

「じゃあさ。おまえの名前、つけてやろうか?」

僕は驚いた。

「……いいの?」

「いいよ。だって、俺、そういう役目だから」

ハネは、僕の胸に手を当てた。

「おまえの中にある“音”を聴くよ」

目を閉じると、ハネのまわりに小さな風が舞い始めた。

そして、ハネは静かに言った。

 

「シロ。
 おまえの名前は、シロだよ」

 

その瞬間、僕の胸に“色”が広がった。

真っ白な光が、僕の心の奥で、あたたかく輝いた。

 

「それって……どういう意味?」

ハネは笑った。

「白ってのは、何にでもなれる色なんだよ。
 悲しみにも、怒りにも、喜びにも。
 おまえは、全部の感情を取り戻す旅をしてるんだろ?」

僕は驚いて、でもどこか納得したように、頷いた。

 

「ありがとう、ハネ」

「どういたしまして。
 でも“名前”はただの始まりだ。
 本当の“意味”は、自分で見つけるんだぜ」

そう言って、ハネは大きく翼を広げた。

「じゃあな、シロ! また風のどこかで!」

風とともに、彼は空へと舞い上がっていった。

 

僕は、しばらく空を見上げていた。

風が吹いていた。

そして、僕の胸の中で、はじめて自分の“名前”がやさしく響いた。

 

(僕は、シロ)

この世界に、ようやく“ひとつの色”が宿った。

 

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