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『内側の住人ーお前は、もう、喰われているー⑫』

第12章 嘘を閉じ込めた部屋

 

扉の向こうに広がっていたのは、古びた洋館の一室だった。

壁は深い赤に染まり、重たいカーテンが窓を塞いでいる。
空気が妙に湿っていて、何かの匂いが鼻につく。

「ここは……?」

俺はゆっくりと足を踏み入れた。

カタン、と何かが揺れる音がした。
振り返ると、扉はもう、消えていた。

 

部屋の中央には、大きな鏡があった。
まるで誰かを待っていたように、そこにぽつんと立っている。

俺は引き寄せられるように、鏡の前へ。

映っているのは――
“笑っている俺”だった。

 

「……誰だよ、お前」

本当の俺は、今、恐怖に震えている。
なのに、鏡の中の“俺”は、にやにやと不気味に笑っていた。

 

そして、その“笑う俺”が、口を動かした。

「お前さ、忘れたつもりだったろ?」
「ぜんぶ、嘘だったんだよ」
「“優しい人”を演じてただけ。
本当は、ずっと誰かを見下してた。
怖かったんだろ? バレるのが」

 

ズキン、と心臓が軋んだ。

思い出す。
心の奥に封じていた、小さな“嘘”たち。

誰かのためと口では言いながら、
本当は、自分の保身だった。

正しさの仮面をかぶって、誰かを裁いていた。
それが、俺だ。

 

「もう隠せない。
この部屋に入った時点で、“嘘”は全部、剥がれる」

鏡の中の俺は、にっこりと笑った。

その笑顔が、吐き気がするほど気味悪かった。

 

「受け入れるしかないのか……?」

「そう。
嘘も、弱さも、ぜんぶ“自分”だから」

 

鏡の中の俺が、最後にそう言って、
静かに消えていった。

 

そして次の瞬間、部屋の奥の本棚が音を立てて動いた。

現れたのは――

階段。
闇の中へと、ずっと下へ続いている。

 

「まだ、終わらないのか……」

俺は深く息を吸い、階段を降り始めた。

 

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