『内側の住人 ― お前は、もう、喰われている ―①』
🩸 あらすじ
ある日、僕はふと気づいた。
「自分の考え」が、少しだけ“ズレている”ことに。
笑いたくないのに笑っている。
許したくないのに、なぜか優しくする。
それは――“僕”じゃない“誰か”が、内側に住んでいるからだ。
小さい頃から、誰かに見られているような感覚があった。
でもそれは“外”ではなく、“内側”からだった。
僕は問いかける。「君は誰?」
その日から、ノートに返事が書かれるようになる。
僕の手によって。
第1章 最初のズレ
最初の“ズレ”に気づいたのは、たぶん梅雨の終わり頃だった。
鏡の中の自分が、ほんのわずかに遅れて笑ったのだ。
――そんな馬鹿な。
そう思って目を凝らしたけれど、次の瞬間にはもう普通だった。
「疲れてるんだな」
そう言い聞かせて、何事もなかったかのように顔を洗った。
でも、それから妙なことが続いた。
例えば、冷蔵庫にしまったはずのプリンが、翌朝なくなっていたり。
録画したテレビ番組の再生履歴に、見覚えのないマークがついていたり。
些細なことばかりだった。だけど、確かに“何か”が少しずつ、ズレていた。
ある日、ノートを開いたときのことだ。
そこには、見覚えのない文字が書かれていた。
ボールペンの筆圧が強く、少しだけ紙がへこんでいた。
「気づいた?」
それだけだった。日付も、名前もない。
書いた覚えはない。けど、筆跡は――俺のものだった。
その夜、鏡の中の自分をじっと見つめた。
何か言いたげに口元を動かす自分が、ほんの一瞬だけ“笑った気がした”。
まるで、
「おかえり」とでも言うように。
俺は、急に寒気がして、洗面所の電気を消した。
でも、その背中には確かに――
“もう一人の自分”の視線が、ずっとついてきていた。

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