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『内側の住人ーお前は、もう、喰われているー⑥』

第6章 記憶の落書き

 

それは、見覚えのある絵だった。
赤い服の少女と、大きな男の人。
手をつないで笑っているように見える。
でも、なぜか不気味だった。

 

絵の隅には、うっすらと何かが塗りつぶされている。
名前らしき文字――だけど、上からぐしゃぐしゃに消されていた。

 

「これ、誰が描いたんだ?」

俺は、何度も問いかけた。
でも答えは返ってこない。

 

その夜。
また“赤い部屋”にいた。
壁の絵が変わっていた。
少女が、男の人を――ナイフで刺していた。

「あなたが、わたしを忘れたから」
「あなたが、わたしを捨てたから」
「だから、わたしはここにいるの」

少女の声が、耳の奥に直接響く。
それは怒りではなく、哀しみだった。

 

翌朝、職場のデスクの上に、またあの絵が置かれていた。
今度は、男の顔が消えていた。
ただの“のっぺらぼう”になっていた。

その日の午後、上司に言われた。

「……おまえ、娘さんの話、最近しないな」
「え? 娘……?」
「ほら、小学校の頃、いつも絵を描いてた、あの子」
「……なんの話ですか?」

俺は、本当に覚えていなかった。
いや――思い出したくなかったのかもしれない。

 

夜、自室の壁に、気づいたら落書きが現れていた。
赤いクレヨンで描かれた、小さな少女。
その隣に、なぜか俺の名前が、震える字で書かれていた。

 

「おとうさん、どこ?」

 

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