『終わりの音を聴いた少年②』
第2章 第一の扉
世界が傾いた――そう感じたのは、たぶん僕だけじゃなかった。
鐘の音が鳴り終わったあと、僕とミユは顔を見合わせて、同時に言った。
「今、何か……変わったよね」
風が戻ってきた。時間も動き始めた。でも、その“ズレ”のような感覚は、どこかに残っていた。
「第一の扉が、開いたんだよ」
ミユがぽつりとつぶやいた。
「それって、どういう意味?」
「私にも、全部は分からない。ただ……」
彼女はポケットから小さなノートを取り出した。表紙には、黒いペンでこう書かれていた。
『終末の記録』
「……それ、何?」
「音を聞き始めてからのこと、全部書いてるの。誰かに読まれる前提で」
ミユはページをめくりながら続けた。
「鐘の音が鳴るのは、13日間で5回だけ。毎回、“扉”が開くらしい。そして、5つの扉が全部開くと……終わる」
「終わるって……何が?」
「分からない。でも、そのときは“世界の形が変わる”って」
「誰が言ったの?」
ミユは、少しだけためらってから言った。
「夢の中で、“女の人”に言われたの」
僕は黙った。
夢の中――。
それはあまりにも曖昧で、信じがたい話だ。
でも、「この子なら本当に見たのかもしれない」と思わせる何かが、彼女にはあった。
「次の鐘が鳴るまで、あと三日」
「三日……?」
「その間に、“見つけなきゃいけないもの”がある」
「何を?」
「“鍵”。扉を開いたままにしておく鍵」
ミユはそう言った。
「鍵が見つからなければ、扉は“勝手に閉まる”。閉じたまま次の鐘が鳴れば、“一つずつ終わっていく”」
「一つずつ……何が?」
「“この世界をつくっているもの”」
僕は、自分の鼓動が早くなっているのを感じた。
「そんなの……意味が分からないよ」
「分からなくても、やらなきゃいけない。だって、聞こえるでしょ?」
僕は、答えられなかった。
――カチ、カチ、カチ……
相変わらず、あの音は鳴っている。
でもその音の奥に、もう一つ――微かに、
“誰かの泣き声”のようなものが混ざっている気がした。
そのとき、僕のスマホが震えた。
通知はない。画面も暗いままだ。
でも、たしかに“震え”た。
「それ、合図かも」
ミユが言った。
「最初の鍵、きっとどこかに現れてる」
「……どこに?」
「行こう」
彼女が指さしたのは、坂道の向こう――学校の裏手にある、古い音楽室だった。
「……第一の鍵は、“音”の中にある」
そう言って、彼女は歩き出した。
僕はその背中を、しばらく見つめてから、追いかけた。
こうして、
僕たちの“最初の扉”が、本当の意味で、開き始めた。
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