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日刊ニュース小説|第74号(2025/11/21)


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若手蔵元コンビ「ケロハナ87」発売 異色の日本酒、業界「変える」
(朝日新聞ニュース速報2025年11月21日17時00分)

✍️ 要約文

日本酒の原料である酒米の価格高騰など、厳しい状況が続く日本酒業界。

宮城県内の若手蔵元コンビ(蔵王酒造の渡辺毅一郎社長と、内ケ崎酒造店の内ケ崎啓社長)が共同で新商品「ケロハナ87」を開発し、業界に新風を吹き込もうとしている。

「ケロハナ87」はコメの削り割合を抑えつつ、若い世代に響く“フルーティーな味わい”を追求した低アルコール日本酒。

日本酒離れが進む現状を変えたいという思いから開発され、13日に発売された。

2人はともに1987年度生まれの同年代で、“業界の変化”を期待してコラボに踏み切ったという。


🌕 ファンタジー短編『ケロハナの風灯(ふうとう)』


春の蔵に差しこんだ光は、乳白の霧のようにゆっくり揺れ、木桶に触れて小さな音を生んでいた。
風はまだ冷たく、屋根の瓦を指で撫でるようにして流れ、蔵の奥の米粒がほのかに震えた。
発酵の息は青い花弁のように膨らみ、そこに宿る微細な泡が、夜の星座の模写のようだった。
渡辺の掌には、蒸気の温度が柔らかく沁みこみ、光と影がその手首のあたりで静かに混じっていた。
内ケ崎の足もとには、春の土の匂いが溜まり、遠い山から来た風が彼らの名前を試すように揺らしていた。
「風が合図をしているな」と渡辺が呟くと、蔵の梁の影がひそかに頷いた。
空気はゆっくりと膨らみ、ふたつの若い呼吸をそのまま包み、まだ見ぬ酒の気配を子どものように抱いていた。
外の川は、光をゆっくり細く折りながら流れていたが、その反射はひとつの細い筋となって天井に触れ、静かな銀の影を描いていた。
米袋の白は、春の雲と同じ温度をしており、そこに触れた指先は、遠い記憶をそっと呼び起こすようだった。
世界の音は、仕込み蔵の中で少し遅れて届き、風の呼吸のリズムと混ざり合う静かな朝であった。


ふたりが試した新しい仕込みは、米を深く削らずに、若い芽のような香りだけをすくい上げる不思議な配合だった。
酒はまだ名もなく、光をうっすら跳ね返しながら、胎児の心音のように微小な揺れを続けていた。
「若い風に届く酒をつくりたい」と内ケ崎が言うと、外の木立がざわりと応えた。
渡辺は、発酵の表面に落ちた光の粒を見つめ、その粒がゆっくり沈んでいく軌道を祈るように追った。
タンクの奥では、白い泡が端から端へと歩き、まるで労働歌のようにゆるやかなリズムを編んでいた。
名前をつけてやらなければ、と渡辺は思ったが、その思いは声にならず、泡のきらめきに変換されて揺れていった。
蔵の窓を打つ風は、87年生まれのふたりを祝福するように温度を上げ、木板をわずかに震わせた。
「この酒が、閉じかけた扉をひらく灯になればいい」と内ケ崎が言うと、天井の梁に影が花の形を刻んだ。
外の道を渡る光は、ふたりの肩にそっと触れ、新しい願いの輪郭をゆっくり描いた。
その願いは、まだ言葉ではなく、春の空気に溶けた透明な息のようだった。


発酵の第四夜、蔵に灯された小さな明かりが、酒面の上でひとつ跳ね、遠い星の拍動に似た光を生んだ。
泡は一度沈んだあと、かすかな音で浮かび上がり、その揺れが、酒の奥で生まれつつある名の気配をそっと震わせているようだった。
渡辺はその音を聴き、胸の奥の雪解けが進むような静かな温度を感じた。
内ケ崎は、風の流れが変わったことに気づき、窓の外を見たとき、白い花びらが灯のように漂っているのを見た。
花びらは言葉にならない返事を含んでおり、ふたりの願いの輪郭をそっと撫でていった。
「ケロハナ……」と渡辺が呟くと、蔵の奥で小さな音が鳴り、酒の表面が一瞬だけ光の羽根に変わった。
その羽根はすぐ溶け、風の底に吸い込まれていったが、その消える気配は祝詞のように柔らかかった。
発酵の熱はゆっくり育ち、ふたりの呼吸と混ざり合い、蔵全体をひとつの生命に変えていた。
米粒は遠い田んぼの記憶を抱えたまま膨らみ、その記憶が酒に流れ込むたび、蔵はわずかに震えていた。
夜の星々は、窓越しにひっそり光を落とし、仕込みのタンクにひと筋の道を描くようだった。


やがて、名付けられた酒は瓶詰めされ、風の手を離れて外の世界へ渡る時が来た。
蓋が閉まる瞬間、酒はわずかに揺れ、その揺れが別れの言葉のように淡く響いた。
渡辺は瓶の緑を見つめ、蔵の奥に残った温もりが、ゆっくり外気へほどけていくのを感じた。
内ケ崎は、酒が旅に出るというだけなのに、蔵の梁の影がひとつ消えた気配を受け取った。
タンクは空になり、そこには白い音だけが残り、風がその音を撫でていった。
蔵の外に出ると、夜の川が細く光り、まるで酒の旅路を示しているようだった。
「どうか届いてくれ」と渡辺が言うと、遠くの山が静かに呼吸を返した。
彼らは並んで歩き、その影は春の土の上でゆるやかに揺れ、酒の未来を祈る輪郭になっていた。
風は旅立つ瓶に触れ、87の数字をそっと撫でるようにして温度を変えた。
別れの夜は、どこか花が散る前の静けさに似ており、ひっそりとした祈りの音だけが残った。


翌朝、蔵に戻ると、昨夜の光がまだ木板に残っており、それは旅立った酒の余韻のようだった。
遠くの街で誰かが瓶を開けた瞬間、微かな風が蔵の窓を叩き、返事のように音を立てた。
風は香りを運び、花のような甘さを含んだ微粒子が、蔵の中心で小さな灯となって揺れた。
その灯は、一度消えかけたが、すぐにふたつの呼吸を思い出したように光を結び直した。
「届いたんだな」と内ケ崎が呟くと、天井の影がゆっくり傾き、静かな頷きになった。
渡辺は目を閉じ、風の温度に耳を澄ませ、その温度が酒の旅の続きを語っているのを聴いた。
蔵の奥では米袋の白が光を吸い込み、次の季節を待つ花芽のように震えていた。
外の川はゆっくりと光を折り、酒が辿る世界の道を映す鏡のように静まっていた。
世界はほんのわずかに明るく、その明るさはふたりの祈りが風に乗った証のようだった。
風が最後に蔵を横切り、光とともにひとすじの歌を残して去っていく静止であった。

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