『感情の国ーシロとエモノスたちー⑫』
第12話 ナギと“絶望の国”
草原を抜けてしばらく歩くと、空がどんよりと曇りはじめた。
灰色の空。
重たく沈む空気。
遠くに見えるのは、黒く塗りつぶされた街――そこが、“絶望の国”だった。
「ここには近づかない方がいい」
風が、そう囁く。
でも僕は、足を止めなかった。
なぜなら、そこに“ある存在”がいることを知っていたから。
その存在の名は、ナギ。
感情を失くす直前まで、僕と深くつながっていた誰か。
――かつての、親友だった。
“絶望の国”の中は、音がまったくなかった。
風も吹かず、誰も話さず、ただ沈黙が漂っていた。
建物も、空も、道も、すべてモノクロ。
まるで世界が死んだ後のようだった。
その中心で、ナギは一人、佇んでいた。
彼の瞳は空っぽで、感情の欠片すら見えなかった。
僕は声をかけた。
「ナギ……俺だよ。」
ナギは、ゆっくりこちらを向いた。
けれど、反応はなかった。
まるで、僕の存在ごと、認識できていないようだった。
「ここに来たのは、君を連れ戻すためじゃない。
ただ、“君の気持ち”を聴きに来たんだ。」
そう言って、僕はポケットから“風の手紙”を取り出した。
読んで聞かせると、ナギの目が一瞬だけ揺れた。
けれど、すぐに表情は戻ってしまった。
その時、僕の胸が熱くなった。
言葉にならない感情が、込み上げてきた。
気づけば、僕は叫んでいた。
「俺は、君のことを忘れてない!
名前も、声も、手のぬくもりも……
全部、まだこの心にあるんだ!」
沈黙の国に、声が響いた。
その瞬間、空に裂け目が走った。
黒い空に、一本の“ひかり”が差し込んだ。
そしてナギの目に――
一粒の涙が浮かんでいた。
ナギはそっと、僕にこう言った。
「俺は、忘れてなんかいなかった。
ただ、“思い出すのが怖かった”だけなんだ――」
それは、絶望の中に残っていた、かすかな希望の声だった。
僕はナギの手を握った。
冷たかったけど、確かにそこに“命”は戻り始めていた。
風が吹いた。
“絶望の国”の空が、ゆっくりと青に変わっていく――
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