『感情の国ーシロとエモノスたちー⑭』
第14話 心の中心(コア)へ
ナギと別れたあと、僕は風に導かれていた。
一人きりだったけれど、不思議と怖くなかった。
ナギの中にあった“赦し”の感情が、まだ僕の中であたたかく揺れていたからだ。
風は僕を、「感情の国」の中心へと運んだ。
そこには、どこまでも静かな空間があった。
音も、色も、感情も、すべてが溶け合って、ただ“在る”だけの空間。
そして、ひとつの扉があった。
それは、ずっと昔に僕が閉ざした“心の中心(コア)”の扉だった。
「シロ」
風が、初めて僕の名前を呼んだ。
「この扉の中には、“君自身”が眠っている。
名前の意味。感情の本質。
そして、“なぜこの世界に色がなくなったのか”。
すべて、ここにある。」
僕はゆっくり、扉に手を伸ばした。
触れた瞬間――
記憶が、一気に流れ込んできた。
───色を奪ったのは、人間たちだった。
争いを恐れて、感情を封印することを選んだ。
その技術は“心核遮断(シンコアシャダン)”。
心の中心を閉じることで、人は無感情になり、争いを避ける世界を手に入れた。
けれど、その代償は大きかった。
世界から“音”が消え、“色”が消え、人々は自分自身の声すら聴かなくなった。
やがて“感情の国”は、現実から切り離され、誰の記憶からも忘れられた。
そんな中で、唯一感情を持って生まれた子どもがいた。
それが――僕。
なぜ僕だけが?
どうして?
「それは、君が“鍵”だから」
風の声が応えた。
「世界に再び色を戻すには、“心の中心”を開ける者が必要だった。
君は、封印された感情たちの“最後の希望”なんだよ。」
僕は、震えながら扉を押し開けた。
そこには、“もう一人の僕”がいた。
眠っていた僕は、目を開けた。
その瞳には、すべての“色”が映っていた。
風が言った。
「さあ、選んで。
この世界に、もう一度――“色”を戻すかどうか。」
扉の奥で、僕は小さくうなずいた。
まだ怖かった。
でも、もう逃げないと決めた。
感情は、たしかに苦しみをもたらす。
でも同時に、色を、光を、命を――この世界にもたらすものでもある。
僕は、もう一人の自分と手を取り合った。
そして、最後の扉が――開いた。
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