【人事の話#60】Josh Bersin氏から考える日本企業② 人事は頑張っているのに、なぜ会社は変わらないのか
人事の仕事は、一年中予定で埋まっています。
目標設定、評価、人事異動、従業員サーベイ、管理職研修、選抜研修、後継者計画。
年間スケジュールに沿って準備し、関係者へ説明し、期限までに実施する。そして一つ終わると、すぐ次の施策が始まります。
人事は、決して暇ではありません。それでも、不思議なことがあります。
毎年これだけ多くの施策を実施しているのに、若手社員の離職は減らない。管理職は育たない。部門を越えた異動は進まない。次世代リーダーの顔ぶれも大きくは変わらない。
人事は頑張っている。それなのに、組織はなかなか変わらない。なぜなのでしょうか。
「施策を回すこと」が目的になっていないか
もちろん、人事制度を正しく運用することは重要です。評価を期限までに終える。異動を滞りなく実施する。研修を予定どおり開催する。一定規模以上の企業では、こうしたオペレーションがなければ組織は回りません。
しかし、いつの間にか「施策を実施すること」自体が、人事のゴールになってしまうことがあります。
研修は予定どおり実施した。サーベイの回答率は目標を達成した。評価も期限内に終わった。後継者リストも経営会議へ提出した。ここまでは確認できます。
では、その結果、何が変わったのでしょうか。管理職の行動は変わったでしょうか。サーベイのあと、職場の課題は改善されたでしょうか。後継者候補は、本当に次の経営を担えるよう育っているでしょうか。そこまで見届ける前に、次の施策が始まります。
私自身、人事として仕事をする中で、「施策は実施した。でも、何を解決できたのだろう」と感じることが何度もありました。
組織の問題は、人事の担当ごとには起きない
Josh Bersin氏は、このような状況に対して「Systemic HR」という考え方を提唱しています。
その根底にあるのは、とてもシンプルな考え方で、「組織の問題は、人事部の担当領域ごとには発生しない」ということです。
たとえば、若手社員の離職が増えているとします。
人事はつい、「キャリア研修を実施しよう」「管理職研修を強化しよう」「エンゲージメント施策を増やそう」と考えます。
どれも間違いではありません。しかし、本当の原因が別のところにある可能性もあります。
若手に挑戦できる仕事が任されていない。異動希望が通らない。管理職が忙しすぎて部下と向き合えない。報酬が市場に追いついていない。こうした状況なら、研修だけでは問題は解決しません。
採用、配置、育成、報酬、マネジメント、仕事の設計。複数の要素が絡み合って、一つの問題を生み出しているからです。
人事施策は、なぜ増え続けるのか
日本企業では、人事の仕事が「今、事業に何が起きているか」ではなく、「今年もこの時期だから何を実施するか」から始まることがあります。
評価の季節だから評価をする。サーベイの時期だからサーベイを実施する。選抜研修の時期だから候補者を選ぶ。さらに、新しい課題が見つかると、新しい施策を追加します。
一方で、前年の施策をやめることは、あまりありません。
こうして、人事施策は毎年少しずつ増えていきます。しかし、人事施策が増えることと、組織が良くなることは同じではありません。
むしろ現場では、「またサーベイですか。」「また研修ですか。」「また面談ですか。」 そんな声が聞こえてくることもあります。
人事が組織を良くしようとするほど、現場を忙しくしてしまう。これは、人事として考えなければならない皮肉だと思います。
Systemic HRとは、「施策」から考えないこと
Systemic HRは、人事部門を一つにまとめる話ではありません。大切なのは、最初から「どの施策を実施するか」を考えないことです。
まず見るべきなのは、事業で何が起きているのか。組織のどこで問題が起きているのか。その原因は何なのか。そこから考え始める。
その結果として、研修が必要かもしれない。制度改定かもしれない。配置転換かもしれない。管理職の役割変更かもしれない。あるいは、今まで続けてきた施策をやめることかもしれません。
人事施策は目的ではなく、問題を解決するための手段です。Systemic HRとは、その原点に立ち返る考え方なのだと私は理解しています。
人事的に翻訳すると…
人事の成果は、「何を実施したか」ではなく、「何が変わったか」で測られるべきです。
研修を開催したこと。評価を終えたこと。サーベイを実施したこと。
それらは仕事の完了ではありますが、目的の達成ではありません。
本当に問われるのは、その先です。
組織は変わったのか。管理職は育ったのか。若手は挑戦できるようになったのか。事業の課題は解決に近づいたのか。
Systemic HRとは、人事施策同士をつなげる考え方ではありません。「どの施策をやるか」ではなく、「何を解決したいのか」から考えること。そして、施策を実施したところで仕事を終わらせず、組織が変わるところまで責任を持つこと。
日本企業の人事に必要なのは、新しい施策を増やすことではありません。
施策から考え始める習慣を手放し、組織の課題から人事を設計すること。私は、それがこれからの人事に求められる視点なのだと思います。
参考情報:
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