第2章:もう一度、孤独からはじめる物語 第1話「再会の朝」
──この物語は、
「一緒にいるのに、孤独を感じる私 ― ASDと愛着障害の二人」
第1章の続きです。──
アメリカでの学びがひと区切りついた頃、
ちょうど大学時代の友人から、結婚式の招待が届いた。
帰国の理由は、それだけだった。
家には戻らず、式場でもあるホテルに滞在した。
時差ぼけでぼんやりする頭。
胸の奥に生まれたざわめきを
(疲れてるだけ)とごまかそうとする自分がいた。
本当は、わかっていた。
──ユウ。
別れたとき、もう会うことはないと思った。
お互いの成長のためにはそのほうがいい、と
思い込むことで自分を守ってきた。
会いたかったくせに。
愛されるのが怖かったくせに。
その両方を抱えきれなかった自分を、
サキはまだゆるせていなかった。
式当日の朝。
新婦に受付を頼まれていたサキは、早めにホテルの部屋を出た。
エレベーターの鏡に映る自分は、
どこか他人のように見えた。
(……ユウ、来るんだろうな)
来ることは、わかっていた。
新郎も新婦も、4人で過ごした大学時代を知っている。
そしてユウと新郎は、今も同じ研究室でつながっている。
来るのは当然。
それでも、確かめることができなかった。
(……聞けばよかったのかな)
聞けば揺れる。
揺れれば、戻れなくなる。
だから、あえて聞かなかった。
受付の席につき、花を整え、名簿を開く。
式場にゆっくりと人の気配が満ちていくのに、
サキの時間だけが、静かに伸びていく。
ご祝儀袋を受け取りながら、
胸の奥のざわつきが少しずつ大きくなっていく。
その時。
視界の端に、ひとつの影が落ちた。
サキは、反射的に顔を向けた。
探すつもりなんてなかった。
ただ、身体が記憶に引っぱられるように動いた。
ユウが、立っていた。
サキは息をのんだ。
ユウが芳名帳の前に立ち、
ゆっくりと名前を書いていた。
そのペンの動きが、
やけにゆっくりに見える。
たった数秒。
それだけなのに、
胸がきゅっと締めつけられるようだった。
サキは動けなかった。
名前を書く横顔に、
かつての時間が静かに重なっていく。
やがてユウが顔を上げ、
サキと視線が触れた。
その瞬間、
2年半という時間が、
静かに戻ってくるようだった。
髪が少し短くなり、
痩せたようにも見える。
でも、目の奥の静かな光は、あの頃と変わらなかった。
「……久しぶり」
ユウの声は、前より少し低く、
時間の重さが滲んでいた。
「……久しぶり」
返した声は、自分のものではないように震えた。
ユウが視線を落とし、
選ぶようにして言葉を置く。
「元気そうで……よかった。」
その一言だけで、
胸の奥の、触れてはいけない場所が
ふっと熱を帯びた。
サキは言葉が出ず、
小さくうなずくだけだった。
ユウは軽く会釈し、
静かにその場を離れていく。
サキは、
その背中を 目で追うことすらできなかった。
胸の奥の痛みに触れたら動けなくなると、
身体のどこかが知っていたから。
それでも。
──今、何かが動きはじめた。
その確かな予感だけが、
サキの胸に、静かに、強く、残った。
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