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3つの小話「ちゅうしゃ」

箱の中に、3つのチョコレート。
一粒では物足りないのに、3つだとお得な感じがする。
おなじ種類が3つより、「ミルク・ホワイト・ブラック」みたいに、違う味だともっといい。

3つの小話』は、そんな3粒のチョコレートをイメージした。
おなじテーマだけど、味が違う。
一口で食べられるくらいの短い話。
どこからでも、どれかひとつでも。
__お暇のお供に、つまんでもらえれば。


「注射」

注射が苦手だ。
大学生のとき、熱があるのに病院に自転車で駆け込み、注射をしたら、そのままぶっ倒れた。
それ以来、注射をするのが怖くて、吐き気をもよおしたり、目の前が真っ暗になったりする。
車椅子で運ばれたこともあって、病院に多大なるご迷惑をおかけしたので、近年はかならず「横になって注射をする」ようにしている。

健康診断の際、お決まりの文句のような「注射でご気分悪くなったことありますか~?」という問診に「はい!」と食い気味でこたえる。
多くの看護師さんは、「無理しないで、横になってやろう」と言ってくださり、わたしを空き部屋に連れて行く。
そのとき、せっかくそこにセットしてあった注射道具の一式を、両手いっぱいに抱えて空き部屋を探し回るのをみると、申し訳ない気持ちになる。
「倒れたのは何年も前なので、やっぱりここでできるかもしれません」と言いそうになる。
それでも、倒れるほうが数倍ご迷惑なので、黙ってちぢこまり、慎ましい顔して看護師さんについていく。

横になってやれば、気分が悪くなることはない。
「すぐ起きなくていいからね」と、優しく言われ、気まずくて「平気なときもあるんですけどね」とか「今日のは全然痛くなかったです」とか余計なことを言ってしまう。
すると、看護師さんは「いいのよ」と笑ってくださり、それがまた、心をもぞもぞさせる。

「座っていても大丈夫です」と、胸を張って言える日が来るのだろうか。
それとも、一度でも倒れた人は、一生横になって注射すべきなのか。
おばあさんになっても、横になって注射する自分を想像して、それはそれでふさわしいような気もするので、まあ、いいかなとおもったり。


◇◇◇


「駐車場」

息子が生まれてから、「駐車場」には世話になってきた。
だれも停めていない駐車場の白い線。
散歩のたび、息子たちは、その白い線の上を、タッタタッタと歩いてまわった。
注射スペースには、番号がある。
数字が好きな長男も次男も、延々と数を数え続けた。

「駐車場」は、室内遊びでも役に立つ。
トミカで遊ぶときには、画用紙に線を描いて駐車場をつくれば盛り上がる。
積み木でも、段ボールでも、木の板でも、レゴでも、駐車場はどんな材料でもつくれるし。
そばに「P」を書けば、それっぽい。
お片付けすら、駐車場ごっこで。

人生でこんなにも「駐車場」に感謝する日がくるとは思わなかった。
ありがとう、駐車場。
用途と違う利用の仕方して、ごめんね。


◇◇◇


「カチューシャ」

髪が多くて、長かったので、小学生のころは、バンダナやカチューシャを愛用していた。
でも、お嬢様みたいで、ちょっと恥ずかしい。
だから、家でしかつけなかった。

大人になり、初めてのディズニーランドに行ったとき、みんながカチューシャをつけているのを見て、軽い衝撃を受けた。
「おそろいでミッキーのカチューシャをつけよう」と友達が言うので、ぶっ倒れかけた。
無理です恥ずかしいですわたし。

しかし、この世界はどうやら、頭に何かつけなければ、異端者扱いのようである。
初ディズニーで、右も左もわからなかったわたしは、妥協のつもりで帽子を買った。
ドナルドダックがそのまま帽子になった、アホかわいい帽子だった。

後々、写真を見返すと、カチューシャをつけた友達より、わたしのほうが目立っている!
かわいいドナルドを乗せたわたしの頭は、情けなく右に傾いていた。


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